月の住む湖 −動き出した時間−
大鴉と王子の話は終焉を迎えた。
止まっていた時間は、刻々と動き出した。
鳥に戻ったあひるは自然とふぁきやのそばにいた。
いつしか王子ではなく、不器用な騎士を愛していたのだと気が付いたときには、あひるはふぁきあにそれを伝える術を失っていた。
湖に映る自分を見ていると、溜息しか出てこない。
人間ではなく、鳥のアヒルだということ。されが真実だとしても、人間として暮らしていた頃は…。と思ってしまう自分がいた。
「あひる」
ふぁきやに呼ばれて、あひるは水をふるってから、トテトテとふぁきあのそばにいった。すごく穏やかな表情をしたふぁきやに、すくうように抱き上げられた。
「あひる。お前、太ったかのか?」
ふぁきやに抱きかかえられて、『大好きな定位置』にもぐりこもうとしていたあひるは、動きを止めた。
「ぐあ!(ちがうもん)」
あひるはブンブンと首を横に振った。
「ぐわぐわぐわわ!(成長してるの!)」
「太ったんじゃなくて、でかくなったっていってほしいのか?」
「ぐわぐわ、ぐわぐわ〜!!(言ってほしいじゃなくて、そうなのよ〜!!)」
楽しげに肩を震わせて笑うふぁきあを見るのはうれしい。でも少しだけ、その瞳に寂しそうな光が宿る瞬間がある。
それを見るたび、あひるは少しいらいらしていた。いつも大切なことがいえないあひるの自分が、悲しくて嫌になってしまう。
「ま、お前はお前だし。俺はそれだけでいい」
ふぁきやはそんなあひるの思いを知ってか知らずか、目を細めておだやかに微笑んだ。
トクンッと、あひるの胸が高鳴る。
「帰るぞ」
次の瞬間には、ふぁきあはいつものぶっちょう面に戻ってしまう。少し耳が赤いのは、照れているからだということは、あひるはそう短くない付き合いの中で知っていた。
あひるはコクンと頷き、ふぁきあの胸にもたれかかった。
ドクンドクンと、規則正しく鼓動をきざむふぁきあの心音が、最近、せつないメロディーに聞こえる。
きっと、それはふぁきあのコトが好きだから。
スキって伝えたいのに、鳥のあひるでは伝えることが出来ない。
大切なコトが伝えられない。あひるはそのもどかしさを忘れようと、ふぁきやの腕の中でまるまった。
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エンディングのふぁきやとあひるのらぶらぶっぷりが、かわいくってかわいくって、思わず書いてしまって早くも数年放置していたものを掘り起こしてみました。
少女小説テイストでお送りいたします。
06.6.13かきじゅん