李ラックマ10 「ふたたび…」
幼い頃の夢を見た。
迷子になって、泣き疲れて、ふかふかの落ち葉に包まって、大きな木の下で寝てしまった時のことだ。
力強い腕に抱き上げられて、ものすごく安心したのを覚えている。
「せいか」
親父の声が聞こえていたけど、起きたら抱き上げてもらえないと思って、必死で寝た振りをした。
「しょうがない…」
そう呟いた親父は、俺をぎゅっと抱きしめてくれた。
「ん…」
目が覚めて、懐かしい夢だったな…と、とりとめもなくぼうっとする。
ついで、頭がズキズキ痛むことに気がつき、あちこち痛いのは何でだろうと記憶をめぐらす。
それ以前に、俺を抱いているこの腕はいったい…。
「起きたか?」
「え…」
見上げると、史鋭慶がいる…。
いったい何があったんだ、自分!っていうか、この体制はいったい…!?
「目が覚めたのか、小リラックマ」
視線を動かすと、くまの格好をした男……。
「あーっ!!俺を暗殺しにきたふざけたくまのきぐるみ男!!」
俺はとっさに指をさして叫んでいた。
「…青樺」
「小リラックマ…?」
かすれた声で俺を呼ぶ史鋭慶と、奇天烈な名前で俺を呼ぶ暗殺者。共通しているのは、驚愕の眼差しで俺を見ていること。
「なに……?」
この異質な状況に、俺はこれが夢ではないだろうかと思った。
「………記憶が――」
「きおく?」
小さく呟く史鋭慶の言葉に、俺は首をかしげた。
「記憶をなくして、史鋭慶のうちにやっかいになっていたのさ」
「記憶を……?」
暗殺者の言葉に、眉をひそめた。
そういえば、俺。荷馬車と激突して……。その後――。
「……李ラックマ?」
「あぁ」
見上げると、うれしそうに頷く李ラックマ暫嶺。
「しえーけ」
呼ぶと、ぎゅっと抱きしめてくれる史鋭慶。
目をつぶると、次々に浮かび上がってくる映像。今はもういない父のように、母のように、家族のように俺を愛してくれているふたり。
「ごめん、一瞬でも忘れちゃって…」
頬をすり寄せると、まったくだといわんばかりに、強く抱きしめられた。
再び、史鋭慶の屋敷はにぎやかになった。
太陽に向かって咲く向日葵のような笑顔で、青樺が笑っているから。
「ってか、李暫嶺…。そのくまの格好ってさ……」
「ん?似合っていないか」
「似合っているにあっていない以前の問題・…」
微妙…。と青樺が言うと、ふむ…と李暫嶺が頷いた。
「史鋭慶がくれたものだったのだが…」
唐突な発言に、青樺と史鋭慶は固まった。
「は!?」
「っ??」
「何年前だったか…?俺は任務に失敗して、瀕死の重症だった」
驚愕の表情のままの二人を無視して、話し始める李暫嶺。
「……黙れ」
地を這うような史鋭慶の声がした。殺気を感じて、青樺はぶるりと振るえ、そおっと距離を取った。
「なんだ、照れているのか史鋭慶」
笑顔の李暫嶺と、殺気ムンムンの史鋭慶。
「それ以上話すと、殺すぞ……」
「史鋭慶は気が短くていけない。小魚をいつも残すからだ」
青樺は、微妙にずれた会話を廊下ですくすくと笑いながら聞いていた。大好きなふたりが、本気で傷つけ合うことがないと知っているから。
一区切りついたら、お茶にしよう。
とっておきのお茶菓子と、とっておきのお茶を用意して。
いつもと変わらず、3人で……。
END
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あとがき。
やっと完結いたしました。李ラックマ暫嶺のコスチュームは史鋭慶が発端ってコトで、あとはご想像にお任せします(笑)。
長い間お付き合いいただき、ありがとうございました。
2007.1.29 かきじゅん