温泉へ行こう! 第二話「ヤマト☆パニック」B
ヤマトが起きたのを見計らって、一緒に昼飯を食った。
泣ながら寝た為に、腫れぼったい目をしていた。触ってみると、微かに熱を持ってる。
「腫れてんなぁ―、冷やすか?気持ちいいぞ」
「うん……」
まだ少し眠たそうに、ヤマトはこくりと頷いた。
「ちょっと待ってろよ」
もうすでに癖になってしまったキスをして、俺は部屋を後にした。
食堂に行くとおやつの時間で、いつ作ったのかカルピス氷を多ペていた。
カルピス氷とは、カルピスを製氷機で凍らせたもので、チューペット(チューチューとかとも言う)に並ぶ夏の代表おやつだ。しかもチューペットよりもごみも少なく、御中元(無料と書いてタダと読む)や特売のもの(目指すは198と書いてイチキュッパと読む、らしい)を使えば経済的、だといつか母さんが言っていた。俺的にはにどっちでも良い話だが。
「太一さん」
光子郎が俺を発見し、声をかけてきた。
「あ、太一。今もって行こうと思っていた所なの」
ソラが奥から顔を出した。
どうやら、俺達の分もあるらしい。だったら、目的のものと両方頂いていこう。
「普通の氷もある?」
「あるわよ」
「じゃあ、2〜3個くれるか?」
「ヤマト、目腫れたんでしょ」
「やっぱりね、そうなるんじゃじゃないかと思ってたのよ」
そういいながら、ソラは奥へと消えた。
「ああ。もう、まんじゅうみたい」
手近にあった椅子に腰掛けて、テーブルに置いてあったカルピス氷を一つ、口の中に放り込む。
噛み砕くと、キーンという冷たさと共にカルピスの甘酸っぱい味が、口の中に広がった。
「ヤマトさん、記憶戻りそうですか?」
光子郎が、ガリガリ食ってたカルピス氷を飲み込んで、真剣な表情で俺に聴いてきた。
「いんや」
「しかし、どうしたもんかなぁ。あのままで出発するのは危険過ぎるだろう」
丈が、ずり下がってきたメガネを上げながら、そう意見した。
「確かに。でももう明日には出発しないと、いい加減ヤバイからな。いつまでもヤマト一人の為に、ここにいるわけにはいかないし、明日の朝までに記憶が戻らなかったら、なんとか説得してつれて行こうと思う」
どうしようもない…。それはホントの話だ。俺の話に、光子郎と丈がうなづきつつも考え込んだ。
「その場合、ヤマトさんの戦力はないものとして考えなければならないというのが痛いですね」
「それは大丈夫じゃないかな。ヤマトの紋章は友情だし。記憶が後退しても、心は変わらないと思うし…」
どう言ったらいいんだろう…、と丈が思いあぐねる。 光子郎が、助け舟を出そうとしたのか、話題を変えた。
「そう言えば、ガブモンとアグモンが拗ねてましたよ。かまってくれないって」
「そういや、デジモン達の姿が見えないけど……」
俺はキョロキョロとあたりを見渡した。
「みんな、ヒカリちゃんとタケルくんと一緒にお風呂を洗いに行ってもらっているの」
ソラがボウルを抱えながら奥から出てきた。
「目は氷を直接当てるよりも、氷水にタオルを入れて、絞った方がゴロゴロしないし、氷の角があたったりしないと思うから良いと思うわ」
「さんきゅ」
氷水とタオルの入ったボウルと、カルピス氷の入ったボウルを一緒に渡されてしまった俺は、足で引き戸を開けて廊下に出た。
「すまん、誰か締めといて」
「はい」
叫ぶと、 光子郎の返事が返ってきて、俺はそのまま食堂を後にした。
とりあえず第三話です。もっと行きます。
2006.9.21 かきじゅん