温泉へ行こう!  第二話「ヤマト☆パニック」@

 


 「と言う事で、ヤマトは風呂場でこけた時に頭を打って、記憶が後退しちゃったん だよ」
 「は!?」
 「だ・か・ら、風呂場を見まわりに行った時に、風呂場を出ていこうとしたヤマトが、滑って転んで、風呂の中にダイブして、頭を打って、記憶が5.6歳ぐらいの頃まで戻っちまったんだっての」
 俺―八神太一―は、怯えるヤマトを腰につけたまま力説した。
 8人目の選ばれし子ども・ヒカリと、そのパートナーデジモンのテイルモンを仲間に加え、激戦激戦また激戦の日々を送っていた俺たちは、ラドンの石像が乗っているラドン温泉を発見した。面白そうなのでそこに泊まる事にした俺たちは、手分けをして安全確認をしに行った。
 俺とヤマトは風呂場を見に行った。いつのまにかラブラブになっていたタケルとヒカリを目撃して、落ちこんでいたヤマトがクズクズ言うので、俺はヤマトに「弟離れしろよ」と言った。
 もちろん「自分はどうなんだよ」と、反撃を食らった。
 俺は女の子は男が守るもんだし、いつかヒカリを任せられる男が現われた時とか、ヒカリが一人立ちする時までは守ってやるべきだと思っている。そう言ったら、ヤマトはプイッと不機嫌そうに風呂場を出ていこうとした。
 その矢先、滑って転んで風呂の中にダイブし、後頭部を殴打したのだった。
 目、覚ました時に「お兄ちゃん誰?」ときたもんだ。ビビった……。
 よくよく話を聴くと、5〜6歳ぐらい。時期的には、両親が離婚した後のようだ。
 そして色々あったあげく(温泉へ行こう第1話「みんながあの子を狙ってる」参照)、このままではちとヤバイだろうと判断し、カミングアウト(なんか違う)になったわけだ。
 「お兄ちゃん…?」
 タケルが恐る恐るヤマトに声をかけた。最初はビビっていた、自分に危害を与えないと解かったのか、ニコッと笑った。
 「弟によく似てる。タケルも大きくなったらこういう感じになるのかなぁ…。ねぇお兄ちゃん」
 ヤマトはタケルを見て、そして俺に同意を求めた。
 「ホントに、記憶が後退しているの?」
 ソラが、信じられないという感じで俺に尋ねた。
 「ああ、マジだ」
 取りあえず、顔と声だけシリアス調にして(中身がシリアスじゃねーからな)ソラに返した。
 「もう一日だけでも、様子を見たほうがいいんじゃないかな」
 丈が言った。
 「そうね」
 ソラが溜息をつきながら言った。
 なんだか深刻な雰囲気に、涙腺が緩くなってしまっていた(らしい)ヤマトが泣き出すまでに、そう長い時間はかからなかった。



   


あとがき

 2002年7月28日発行のデジモンアドベンチャー(通称・無印)コピー本「温泉へ行こう!」の第二話です〜。
 実はこっちの話はまだ本の在庫が残ってたりするんだよね・・・。うしこの絵がかわいいらしく、イベントでは人気だった。
 ボチボチ続きます。
2006.8.29 かきじゅん