温泉へ行こう!  第一話「みんながあの子を狙ってる」F




 部屋に帰ったら、すでにヤマトは起きていたが、ぼろぼろと泣いていた。
 「ヤマト?」
 「お兄ちゃん!」
 ガシッと抱き付かれて、太一はうろたえた。
 「ヤマト、ちっとメシだけ置かせてくれ」
 「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
 泣きじゃくる子どもには何も通用しない。
 太一は片手で盆を持ち、ヤマトの肩を空いたほうの手で抱き、座ることを促した。
 そして、そろそろと座り、盆をテーブルの上に置くことに成功した。
 「お兄ちゃんがどっかいっちゃったのかと思ったよう」
 涙でクシャクシャになりながら、ヤマトは太一を見上げた。
 「メシ、取りにいってたんだ。大丈夫、今度からは一言言ってからいくよ」
 「うん」
 「さ、メシにしようか」
 「うん」
 ふたりはいそいそと朝ご飯のしたくをし、いただきますをした。
 「あのね、僕、お兄ちゃんのこと大好き」
 子どもはよく、脈絡無く話が飛ぶ。
 それは不快なものではなく、むしろ愛しい。
 そう気が付いたとき、太一はすっと心が軽くなったように思った。
 そして、じわじわと染み込んでくるヤマトの「大好き」という一言が、すごくうれしい。
 「俺も、大好きだよ」 
  だから、この言葉も、驚くほどするっと口に出来た。
 太一は唇に海苔を付けたまま、ヤマトはほっぺにご飯粒を付けたままの、おはようのちゅうをした。


 TO  BE  CONTINUED
   

       


ひとまずデジモン連載小説第一話「みんながあの子を狙ってる」完結です!
第二話「ヤマト・パニック」もこんな感じで頑張ります〜
06.8.13かきじゅん