温泉へ行こう!  第一話「みんながあの子を狙ってる」@




 その日は特に暑かった。
 「お風呂に入りた―い!!」
 突然、ミミが叫んだとしても、誰にも責めることは出来ない。
 ふと視線を上に上げると、ギラギラと照りつける太陽がその存在を主張していた。
 暑い上に汗でべたべた。不快なことこの上なかった。
 「そうよね」
 頷いたのはソラ。お風呂に入りたいという欲求は、小学生といえども女の子である彼女たちにとってはかなり重要なことである。
 しかし、一応リーダー格の太一は、本当にどうでもよさげにぼやいた。
 「どうでもいいけどなぁ」
 「どうでもよくないわよっ!」
 ソラとミミが異口同音に叫んだ。
 「あんたいつもいつもいっつもっ!どうでもイイワケないでしょっ!!」
 「そうよ!お風呂に入れないなんて、重要だわっ!!」
 地雷を踏んだか…。と、丈・ヤマト・光子郎は冷めた目で太一を見ていた。
 それは、 8人目の選ばれし子ども・ヒカリと、そのパートナーデジモン・テイルモンが仲間に加わり、激戦、激戦、また激戦の日々。心休まる一時のたわいもない会話だった。
 「あの建物はなんでしょう?」
 「………」
 光子郎は、何気なく見た先にあった、奇妙な建物を指差した。
 丈と光子郎と、デジモンを除く6人は少なからず凍り付いた。
 太一は、恐る恐るヤマトに確認した。
 「……なぁ、あれラドンじゃねぇ?」
 「ああ」
 「なんでこんな所にこんなものが……」
 ソラも、それを見上げて呆然と呟く。
  光子郎の指差した先の建物には、上にラドンが乗っていた。いちよ、石でできた建造物であるらしい。
 「ラドンって、なんですか?」
 「光子郎もしかして……」
 顔になんですか?、と書いてある光子郎を見て、太一はオーバーリアクションで引いた。
 「光子郎、もしかしてラドン、しらないのか?」
 ヤマトが、太一の言葉を引き継いで光子郎にたずねた。
 「僕も知らないけど」
 「うっそー、丈先輩も―!!」
 「信じらんない……!」
 皆の異様な驚きように、光子郎はなんだか恥ずかしくなって、赤くなった。
 丈は「良いじゃないか。その、ラドンとやらを知らなくても」とごちた。
 「まあな」
 「たしかに」
 そりゃそーだ。と、頷きあう奴らに見切りをつけ、 光子郎はパソコンで調べることにした。たしかにそっちの方が賢明な判断だ。
 「ラドン温泉……?」
 「あっ、こっちだと思う。大怪獣ラドンの方」
 丈は、光子郎の後から手をのばし、クリックした。
 パッと画面に、建物の上に乗っている石で出来ているラドンと呼ばれる物が出て来た。
 「ごめんな、光子郎。悪気は無かったんだけど」
 「ごめんね、 光子郎君。まさかラドンを知らない日本人がいるとは思わなかったから」
 ヤマトがバツが悪そうに謝罪し、ソラもそれに続いた。
 「もういいです」
 なんだか自分が惨めで、 光子郎はそう遮った。
 「しっかし、だれだよ。あんな悪趣味な建物を建てたのは」
 太一の興味はすでにラドンに向いていて、じぃっと見つめていた。
 「源内さんとか?」
 「意外とピエモンとか、ヴァンデモンとか建てそうじゃない?」
 タケルがどことなくウキウキしながら言い、ヒカリもニコニコと会話に加わっていた。
 「いえてるぅ〜」
 一同-2名、爆笑。話についていけない-2名の 光子郎と丈はこっそりと溜息をついた。
 「で、ラドンはわかったのか?」
 太一は光子郎に振り返た。
 「とりあえず、怪獣映画に出てきた怪獣ということはわかりました」
 「そっか」
 「しかし、かなり古い映画ですよね?」
 光子郎はパソコン画面を丈に見せた。
 「よく、こんな古い映画、知っていたね」
 丈も半ば感心しながら、メガネをずり上げた。
 「親父が好きで、ビデオ屋で借りてきていたからな」
 ヤマトがタケルを見て、微笑んだ。家族が一緒に住んでいてたときの話のようである。
 「僕、覚えてるよ。怪獣同志は種族とか違っても会話が出来るんだよね」
 無邪気なタケルの反応に、一気に場が和んだ。
 「いっちょ、いってみっか」
 太一の言葉に、みんなが頷いた。一同は、ラドン談義に花を咲かせながら、あやしい建物へと向かっていった。
 「怪獣ランドに飛んでて、逃げた時はモスクワを襲ったんだぜ」
  太一がやけにうれしそうに語る。そんな兄を見つつ、ヒカリはニコニコ微笑んでいた。
 「お兄ちゃん、怪獣映画すきだもんね」
 「巨大人食いヤゴが主食なのよね」
 ミミも楽しそうにいい、ソラも共通の話題が発見できたことに目をキラキラさせていた。
 「白黒の映画のね。寝てるところを宇宙人に連れていかれちゃったりするのよ」
 口々に皆が、光子郎と丈にラドンの説明をするが、本人達はちんぷんかんぷんだった。
 「……もういいです」
 「ありがとう、なんとなく解かったよ」
 諦めの溜息と共に、光子郎と丈は説明を遮った。
 「終わったらさっ、どっかでビデオ借りてみようぜ」
 先を歩いていた太一が、振り返って微笑む。
 「そうですね」
 「そうだね」
 丈と光子郎は、声をハモらせて頷いた。
 「じゃあ決まりね!」
 うれしそうに、その場をまとめたのはソラ。
 しかし、さっきまではしゃいでいたミミが、『終わったら』の一言に反応してぐずり出してしまった。
 『終わったら』、とはピエモンたちを倒し、デジモンたちが住むデジタルワールドと、自分たちが住む人間界を正常化させること。今までも、沢山のデジモンや人が犠牲になり、沢山のデジモンや人が被害を受けた。絶対に無事で帰れると言う保証は無く、危険を承知で子ども達はここに来ている。
 それでも、子供と言うのは自分の感情に素直な生き物で、泣いたり、ぐずったりする。それが自分で決めた道であっても。
 「……無事におうちに帰れるの?」
 ヒステリックに泣きかけたミミをなだめたのはソラだった。
 「大丈夫、絶対帰れるわ」
 根拠の無い自信。でも、力強い呪文。
 「……はい」
 「さぁついたぞ―」
 太一が張り切って、腰に手を当てて建物を見上げた。
 屋根の上にラドンをくっ付けた建物は、温泉だった。
 「こ、これはっ!ラドン温泉のラドンと大怪獣ラドンをかけたのか?」
 ヤマトが、「おおっ、なにかがすげ―」と得体の知れないものに感動していた。
 「なんてベタなギャグを」
 ヒカリは冷静に突っ込みをいれた。誰にいれたのかはよくわからないが。
 「温泉って事は、お風呂には入れるのねっ!」
 ミミが、さっき『おうちに帰りたい』とヒステリックに泣きかけたのにもかかわらず、現金なもので目をキラキラ輝かせて、その妙な建築物を見上げた。
 「太一、今日はここで休みましょうよ」
 ソラはちらりと最年少コンビ、ヒカリとタケルを見て太一に提案した。
 「そうだな」
 太一もヒカリとタルを見て、頷いた。最年少コンビの顔には隠しきれない疲労感が顕われていた。
 「タケル、疲れたか?」
 ヤマトもそれに気付いていたのか、なんなのか、甘やかそうとした。
 「大丈夫だよ、お兄ちゃん」
 タケルはにっこりと笑ってそれを拒絶した。
 「ヒカリ、オンセンってなに?」
 不思議そうなテイルモンの問いに、ヒカリはどう言ったらわかりやすんだろうと、言葉を選びながら言った。
 「それはねテイルモン、地面から湧き出す天然のあったかいお湯に浸かるの」
 「太一、それおいしい?」
 「アグモン……。温泉は食えないよ。湯につかるものなんだ。あー、でも温泉饅頭とか……」
 考えこむ太一。
 「ねぇ太一、それおいしい?おいしい?」
 「まあな、あるかどうかは知らんが」
 「とりあえず、入ってみましょうよ」
 ソラが皆を促した。
 「サンセーイ」
 そうして一行は、屋根の上にラドンが乗っているおちゃめなラドン温泉の中へと 入っていった。


   


あとがき

 2001年8月26日発行のデジモンアドベンチャー(通称・無印)コピー本「温泉へ行こう!」の第一話を加筆修正いたしました。
 どうやら世間様は新しいデジモンシリーズのおかげでデジモン事態が盛り上がっている様です。全然テレビをつけない生活をしているので、さっぱりわからないんですけどね。無印でさえ、まっとうに見たことがないっ!(爆)
 でもね。こんなんでも、愛はあるんですよ(汗)。

2006.7.5 かきじゅん