嫌な予感がしたんだ…。

 俺はひたすら走りつづけた先に見たものを、一生忘れないだろうと思った。

 それは、幸せそうに眠る友の顔……。

 「ルスカ…」

 クリスマスの翌日のことだった。



 
遠い日の歌 (後編)



 「ルスカ!おい!!ルスカ!!!」
 揺さぶっても、目覚めない親友。
 いつからここにいたというのだろう。うっすらと積もった雪をはらい、頬に手を添えると、冷たさだけが伝わってきた。
 呼吸はしていない。
 そして、心臓も動いてはいなかった。
 ただ、とても幸せそうな顔で、寝ているかのよう。
 その笑顔になんとなく毒気を抜かれて、俺はへたり込んだ。
 「……」
 それでも、なんとか手に持っていた酒を外し、体を横たえた。
 念のため…。
と、タイを外し、胸を広げた。
 「なっ…」
 俺は息を飲んだ。
 ガリガリに痩せた体。
 いたるところに、浮き上がる黒い斑点…。
 そっと這わせた心臓の位置には、ほのかな温かさだけがかろうじて残っているだけだった。

 「あれほど、無茶をするなといったじゃないか…」
 涙があふれた。
 「俺にぐらい、言ってくれてもよかったじゃないか…」

 病気に犯されていると…。

 もう、長くないんだと――。

 「幸せそうな顔しやがって…」
 そう言って、俺は服を元通りに着せ直した。
 「ガイズでも、迎えに来てくれたのか…?」
 そうだったらいいのにと思った。
 同時に、そうに違いないと確信していた。
 ふいに、遠い日に聞いた、やさしい歌が聞こえた。
 雪が、天使の羽のように舞い落ちはじめた。
 知った気配がして、振り返った。
 「ガイズ……」
 そして、俺はいるはずのない少年の名を呼んだ。
 『エバ』
 にっこりと笑う少年は、エバの記憶と寸分も違わない。
 『ルスカを…つれていくね……』
 「お前…」
 『違うんだよ。ルスカの…。これが寿命だったんだ』
 呆然としている俺に、ガイズは悲しそうに笑った。
 『ずっと見てたんだ。エバが出所するところも、ルスカが頑張ってるところも、頑張りすぎて、病気になったところも。なにもかも……』
 風がひとしきり強く吹いた。
 雪が舞い上がる中、ふわりとガイズが微笑んだ。
 『エバ、幸せになってね!』
 声が遠くなっていく。
 「ガイズ!ルスカ!!」
 俺は声の限りに叫んだ。

 舞い上がる雪の向こう側で、よりそい幸せそうに微笑むガイズとルスカが見えたような気がした。

 END

   


ということで、クリスマス&末年始連続企画、冤罪編。 冤罪バットエンディング後のおふたりさんで、「遠い日の歌(後編)」です。

とってもシリアスなので、注意してください。

2006.12.27 かきじゅん