遠い日に聞いた、やさしい歌が聞こえた。

 雪が、天使の羽のように舞い落ちはじめた。

 知った気配がして、ふと振り返った。

 「……ガイズ?」

 そして、俺はいるはずのない少年の名を呼んだ。



 
遠い日の歌(前編)



 冷たい風が頬をさす。
 俺は、酒とチョコレートと……。
 それから、花を携えて彼のもとへと急ぐ。
 あっけなく、ボルアネたちが逮捕されてから、幾年月もたった。
 それは彼が……ガイズが死んでから幾年月もたったということなのだが、俺の中で、ガイズはいつまでたってもただの思い出として風化することない。
 つい最近のことのように、鮮やかな記憶のままだ。
 その愛らしい笑顔も。
 憎まれ口を叩く、薄い唇も。
 クルクルと動く大きな瞳も。

 「ガイズ…」
 
 気がつけば、墓石の前まできていた。
 俺はごくごく簡単に、墓の上の落ち葉を払った。
 「メリークリスマス、ガイズ。変わり栄えはしないが、チョコレートだ。そっちで食ってくれ」
 俺は、チョコレートと花を供え、そう呟いた。
 「エバは元気に新聞記者をやっているよ。あいもかわらず精力的にな…」
 ポケットから、小さなグラスを取り出した。
 酒の封をきり、グラスに注いだ。
 「まぁ、ガイズ…。今日は飲もうじゃないか」
 墓前にはグラスに入った酒を。
 自分は瓶のままあおった。
 「今も…。ただがむしゃらに、仕事だけをしているよ。疲れて家に帰り、酒をあおって寝るだけだ…」
 苦笑して、空を見上げた。
 「それでも、ガイズ。お前のことだけは毎日思い出しているよ」
 雪が、天使の羽のように舞い落ちはじめた。
 知った気配がして、ふと振り返った。
 「……ガイズ?」
 そして、俺はいるはずのない少年の名を呼んだ。
 『ルスカ』
 遠い日に聞いた、やさしい歌が聞こえた。
 『ルスカってば!』
 さらに、俺を呼ぶ懐かしい人の声。
 俺は幻覚でも見ているのだろうか…。
 頭では、そう思っていたのに、俺はしっかりと少年を抱きしめていた。
 『ちょっ…!ルスカ!?』
 じたばたと暴れる少年を力の限り抱きしめる。もう、どこかに行ってしまわないように。
 「ガイズ…」
 何故だか、涙が止まらなくなった。
 涙腺がぶっ壊れたみたいだ。
 『メリークリスマス、ルスカ…』
 ガイズがそう囁いて、俺の背中に手を回した。



 続く。

   


クリスマス&末年始連続企画。

今回は、冤罪バットエンディング後のおふたりさんです。
2006.12.24 かきじゅん