夏祭りと小さな約束
「夏祭り?」
「あぁ。村で毎年やっているだろ?」
俺より先に来ていたのに知らなかったのかと、怪訝そうな顔をされて、俺は考え込んだ。
あったような気がしないでもない。
でも、思い出せない。
元堅がくるまで、俺は何をしていたのだろう…。
「青樺?」
「あ、いや。何でもないんだ。元堅」
今度は心配そうに顔をのぞき込まれてしまって、俺は首を振った。
「ったく。それが何でもないって顔かよ」
唸るように元堅は呟いて。
次の瞬間、ぐっと力強い腕に引っ張られて、俺は元堅の腕の中に収まった。
「ちょっ!元堅」
「何でもないなんて言わずに、俺には話してくれよ…。青樺」
まるで懇願するようにささやく。背中に回された、一本しかない腕がきつく俺を抱いていた。
俺のせいで腕をなくしてしまったというのに、元堅はいつでも俺に優しい。それはもう、時々泣きたくなるほどに…。
「たいしたことじゃないんだ。ただ、元堅が来るまで、何をしていたのかよく覚えていないんだ。夏祭りなんて、一人で行ってもしかたがないし。だから…」
「青樺…」
「ほら。たいしたことじゃなかっただろ」
苦笑して、元堅の鼻をつまんだ。
俺に鼻ををつままれた元堅は、
「こいつ」
と、笑い、噛みつくような勢いで口づけてきた。
俺も元堅の首に腕を回して、もっと深く、ねだるように舌を絡めた。
「今年は一緒に行こうな。夏祭りに」
口づけの間に囁かれる約束。
「元堅…」
「約束だ」
真剣な瞳に見つめられて、俺は微笑んだ。
「あぁ。楽しみにしている」
そして、また。
俺たちは、どちらからともなく口づけを交わした。
END
ウェブ拍手小説でした。
2010年5月6日に入れ替えいたしました。
かきじゅん
2010.11.11 小説ページに再見