手を握って、ほんの少し微笑んで。


風邪をひいた。
熱はあいからわず高いままで、俺の体力を奪うけれど、咳がめちゃめちゃでるわけでもなく鼻水もない。
ただ、しんどい。
俺は、ごろりと寝返りをうって、その敷布の布の冷たさに息をついた。
戦いが終わってから早くも数年がたち、最近ではもっぱら書物と格闘することが多くなったからだろうか。
体力の無さが身にしみた。
喉の渇きを覚えて、水を飲みにいこうとするが、どうにも面倒くさい。
「まぁ、いっか…」
そのうち熱も下がるだろうと、俺はうとうとと睡魔に身をゆだねようとした。
しかし、微かに扉のあく音がして、重い瞼を持ち上げた。
「青樺…」 遠慮がちに入ってくる元堅をみて、青樺は微かに微笑んだ。
「大丈夫か?」
「ん…」
そう言って覗き込んでくる心配そうな顔。
俺の額に大きな手をあて、う〜んとうなり、
「熱がまだ下がらないか…」
と呟く。
その少し冷たい手が気持ちよくて、なつかしい。
しかし、その手はするりと離れて行ってしまう。視線で追うと、水差しから湯のみら水を汲んでくれていた。
「元堅…」
「どうした?」
水を持ってきて、寝台の横の椅子にどかりと元堅は腰を降ろした。
「ん…なんでもない」
なんとなく、はなれていく手が寂しかったのだとは言えず、ちいさく首を振った。

「水、飲めるか」
そう言われて、こくりと頷いた。
ゆっくりと起きようとして、それすらだるいことに気がつき、「やっぱりいい」と首を振った。
元堅はそんな俺をじっと見て、湯飲みの水を口に含んだ。ゆっくり差し入れられる力強い腕に、ふわりと背が浮いた。
「ん…」
髭がくすぐったくあたり、ついで唇があわさる。少しぬるくなった水が口の中に入る頃には、強烈なのどの渇きと、元堅への愛おしさがあふれていた。
「…もっとか?」
尋ねられて頷くと、親鳥が子にえさを運ぶように、何度も何度も口移しで水を飲ませてくれた。



「おやすみ、青樺…」
そういって、元堅が俺の額に口づけを落とす頃には、俺はまたまどろみの中にいた。
でも、一人になるのが嫌で。
そばにいて欲しくて…。
「元堅…」
名前を呼んだ。
「青樺?」
頬に触れてくれていた元堅の手を握り、ほんの少し微笑んだ。
「大丈夫だけど、そばにいてくれないか?」
自分でも、めちゃめちゃなことを言っているとは思ったけれど、元堅は、
「熱が下がるまでそばにいる」
と言って、手を握って、ほんの少し微笑んでくれた。

END


拍手小説でした。
2008年2月14日?に入れ替えいたしました。
すっかり再アップするの忘れてました。やけに長い年月かかってるな・・・。

2008.7.21 小説ページに再見