チョコフォンデュをあなたと。



 食後、シャンパンと共に用意されたソレに驚いた。
 「トーマ…」
 「なんですか?兄さん」
 ウキウキとテーブルセッティングをするトーマは、何を考えているのだろうか…。
 理解に苦しむひと時である。
 けっして嫌いではないけれど、室内に甘く漂うチョコレートの香り。
 皿に盛られれているのは、色とりどりのフルーツ。
 そこはかとなくめまいを感じながら、意を決してトーマに聞いた。
 「何をするんだ?」
 「チョコレートフォンデュですよ」
 そう言って、トーマはにっこりと笑った。
 小さな頃から変わらない、無邪気な笑顔。図体ばかりでかくなって、たまに小憎たらしいときもあるけれど、やっぱりかわいい弟なのだ。
 しかし、いったい何故に突然チョコレートなのか…。いや、問題はチョコレートじゃなくて、シャンパンも準備されていることか?誕生日でもないし、取り立ててなにかあったというわけでもないはずなのに…。
 どういうわけだろう。と、じっと一挙一動を見ていたら、トーマはふと苦笑して口を開いた。
 「兄さん、今日はバレンタインですよ」
 「あ…」
 言われてみれば、そんな日もあったかもしれない。
 「忘れてましたね、その顔は…」
 クスクスと笑って、トーマはふいうちのように頬にキスをする。
 「すまない」
 「そんなことだろうと思っていましたから」
 正直に謝罪の言葉を気にすると、気にするなとトーマは言い、手際よくシャンパンを開け、グラスに注いだ。
 「兄さん」
 グラスを受け取り、そっと目の高さまでかかげる。
 「乾杯」
 口に含むと、心地よい炭酸の刺激とフルーティーな味。
 「いいシャンパンだな」
 「ええ」
 褒めると、ものすごくうれしそうに笑う。
 トーマがいそいそと苺にチョコレートをつけるのを見ながら、シャンパンを口に含む。
 いささか子供っぽさが抜けない弟に苦笑しながらも、その一挙一動から目がはなせないでいる。
 「兄さん、食べないんですか?」
 うれしそうにチョコがけ苺をほおばるトーマにそう聞かれ、ゆるゆると首を振った。自分で食べるより、見ていたほうが楽しそうだし、なによりも腹がいっぱいだった。
 「トーマが食べればいい」
 「だから、今日はバレンタインなんです。ほら」
 「あぁ」
 差し出されたチョコレートかけのフルーツに戸惑いながらも、頬張るとやさしい甘さとフルーツのみずみずしさが広がった。
 「バレンタインだから、兄さんとなにかしたかったんですよ。バレンタインは恋人たちのための日だっていうじゃないですか」
 にっこりと笑ってトーマは、私の唇についたチョコレートを嘗め取った。
 ニコニコと笑っているトーマを見て、悪い気はしない。むしろ、好きな人が笑顔でいてくれることに、こちらがうれしくなってきてしまう。
 「しかたがない。付き合うとするか」
 苦笑して、私はフルーツに手を伸ばした。
 チョコレートをつけ、
 「ほら」
と、トーマに差し出した。
 「ありがと」
 そう言って、パクッと口にフルーツを口に入れたトーマは、最高の笑顔を見せてくれた。


 ――なぁ、トーマ。

 声に出さずに、心の中で語りかける。
 うれしそうにチョコフォンデュを頬張る弟を見ながら。
 声には出さないけれど、伝わって欲しいと……。

 ――愛しているよ、誰よりもお前のことを…。


 「兄さん、愛しています」
 ふいに握られた手。
 見上げた先には、一人前の男の顔をしたトーマ。
 「……知ってるよ」
 そういって、今度は私のほうからキスをした。
 「愛している、トーマ」
と。
 心の中ではなく、声に出して。
 チョコレート味のキスと共に囁いて……。


 END

  


兄弟で、チョコフォンデュを「兄さん、あ〜んv」とかやりたかっただけなんです…。ごめんなさい〜(逃亡)。
2007.2.11かきじゅん

この小説は
はにコネ1周年記念フリー小説でした。
フリー期間は終了致しました。有り難う御座いました!