とある日の休憩時間

 「ハニー。少し休憩しないか?」
 そう言って、デイビットはセバスチャンの前に大ぶりのマグカップを置いた。かわいらしいキャラクターが描かれたそのマグカップは、ある日突然デイビットがセバスチャンに買ってよこしたものである。
 コトンと置かれたマグカップの中にはもやさしい色合いのロイヤルミルクティー。

 セバスチャンはペンを止めて、デイビットを見上げた。
 「ここの所、根を詰めて仕事をしていただろ?疲れているみたいだったから」
 デイビットの手にも、かわいらしいキャラクターの描かれた大ぶりのマグカップ。
 自分の分も一緒に入れてきたのだろう。
 「すまない」
 気を使わせてしまったかと、セバスチャンは苦々しく思いながらマグカップを手にとった。
 「Good!」
 デイビットは自分の分をすすり、いい出来だったのだろう。そう小さく、しかし満足げに呟いた。
 セバスチャンもゆっくりとマグカップに口づけた。
 「……」
 甘く広がるミルクの味と、ほのかな砂糖が口の中にやさしく広がった。疲れているだろうからと、少し砂糖を入れてくれたのだろう。
 また、紅茶の味もミルクと絶妙なバランスをとっていた。さすがはデイビットといったところか…。
 ……この味は、知っている。
 セバスチャンはデスクワークでこわばった指をほぐしながら、紅茶をすすった。
 18世紀にデンマーク王室の陶器製造のために設立され、最高級の器にふさわしい紅茶の提供を理念に、ベストシーズンに手積みしたピュアな紅茶を手がけているメーカー。ロイヤルコペンハーゲンのウバ。
 けっして安くはないメーカーのものである。それ以前に、うちの紅茶の品揃えの中には入っていなかったはずだ。
 「デイビット」
 「なんだ?ハニー」
 名前を呼ぶと、ニコニコと笑顔のデイビット。
 「……なんでもない」
 言いたいことがあったはずなのに、本人がニコニコニコニコと笑っているとどうも言いにくい。
 まぁいいか。と、ゆっくり紅茶の香りを堪能する。
 コトンとデイビットが自分のマグカップを机において、近くにあったイスに腰をかけた。
 デイビットは、ゆっくりとセバスチャンの頭をなでた。
 「あんまり、無茶はしないでくれよ。ハニー」
 「さあな。それは旦那様次第だろう」
 髪をなでていた手にそっと頬をなでられて、セバスチャンはその手があたたかいことにほっとした。
 「ま。そうなんだけどな…」
 頬をくすぐられて、セバスチャンはゆっくりとマグカップを置いた。
 「もうそろそろ休憩時間は終わりだが?」
 時間を見ると、そろそろ夕飯の仕込みをしなければいけない時間。自分も旦那様にエサを与えに行かなければならない。
 セバスチャンは頬をなでるデイビットの手を引き離そうと、自分の手を添えた。
 「あと一分残ってる」
 デイビットはふわりと微笑んで、セバスチャンの唇をなめた。
 「デイビット」
 デイビットに何を言ってもある程度は無駄だとわかっていても、窘めるように視線で促す。
 「ミルクティーの味だな」
 しかし、やはりというかデイビットは気にする様子がない。
 セバスチャンは、致し方ないと溜息をついた。こいつはいつもこうなのだ…。
 そして、小さく、それと知れないように深呼吸して、にっこりと笑った。ついでに、デイビットの手をキュッと握る。
 「ハ…ハニー?」
 顔を真っ赤にして照れるデイビットに、どこからともなく取り出したハリセンを高速で繰り出した。
 パシーン!!
 「さっさと仕事につけ。一分たった」
 「ハニー…」
 「鉄板を仕込んでいないだけありがたいと思え」
 無表情で言い放つ、取り付く島のないとはこのことだ…。とデイビットは呟きながら、「じゃあな」と夕飯の仕込をするべく厨房へと消えていった。
 セバスチャンはそれを見送ってから、イスに深く腰をかけ、眉間をもんだ。やはり、少々疲れているようである。
 それから、まだ半分以上のこっているマグカップを手にとった。
 「…」
 あたたかいマグカップを両手でくるみ、ミルクティーをすすった。
 そして、セバスチャンがマグカップを見つめながら、ほんのりと微笑んだことはデイビットは知らない。

 END

  


砂が吐けそう…。
ちなみに、ロイヤルコペンハーゲンのウバはマジで高いです。泣きたくなるぐらいに…。おいしいんですけどね。
06.6.4かきじゅん