最強の酒・スピリタス。

 味も何もあったもんじゃない。

 ただ、あるのは喉を焼く強烈なアルコール。

 その感覚は、酔えもしない酒の味を楽しむよりも、俺にあっているような気がした。




 スピリタス



 「やぁ、セバスチャン」
 呼び止められて振り返る。
 一見ただの壁がぽやんと光を帯び、人が出てきた。
 「なんですか?ユーゼフ様」
 「アレ、どうなっている?」
 壁から「よいしょ」」と、言いながら出てくる向かいの住人にも見慣れてしまった俺は、別段何も思わず「あぁ」と頷いた。
 「腕利きを手配してありますが、何か問題でも?」
 不意に視線を上げた瞬間に、腕をつかまれ、引き寄せられた。
 「なっ!?」
 見開いた目に映る、きれいな顔。
 温かく少しかさついた唇が触れて、すぐ離れた。
 「何のおつもりで…?」
 「なんとなく…かな」
 睨みつけると、くすっと笑ってユーゼフは手を離した。
 いつもと変らない人をくったような笑顔を貼り付けて。
 突然、人にキスなんかしといて。
 それでも、平然と。
 「アレ、よろしくたのんだよ」
 「わかっております」
 会話をして、また壁の中に消えていくユーゼフを見送った。
 色気も何もあったもんじゃない。
 セバスチャンは心の中で毒づいた。
 
 ただ、あるのは唇に残る、いたって普通の他人の唇の感覚。
 しかし、その感覚は、スピリタスが喉を焼く感覚より強烈に、そして鮮明に残っていた。



 さぁ、どうしてくれよう。

 獣が、目を覚ます。

 さぁ、どうしてあげようか。



 仕掛けられた遊戯は、酔えもしない恋愛を楽しむよりも、俺にあっているような気がした。

 END

 
 


後書き
スピリタスはウオッカで、96度(だったかな)のアルコール度数を誇る最強の酒です。一回、買ってきましたが、ストレートで飲むことは親に禁止されました(当たり前だ)。
60度ぐらいのお酒ならストレートでいっちゃいますけど、喉が焼けるような感覚が好きです、私は。
きっと、ユーゼフ氏とセバスチャンの恋愛(というか駆け引き)も、甘いと言うよりは灼けるように刺激的で、スリリングなモノではないかと思います。
2007,12,9 かきじゅん