「ラムの香りがする…」



 デイビットはそう言って、セバスチャンの指先にキスをした。






 
指先へのキスはラムの香り






 「このバカッ!シャワーぐらい浴びさせろ!!」
 部屋に行って、速攻で抱きしめてキスをして、相手の第一声目がコレだった。
 「俺は別にかまわないんだけどな」
 デイビットはニッコリ笑って、セバスチャンの額にキスをした。それから、セバスチャンの手を取って、その指先にキスを――。
 きれいで清潔な手指からは、ほんのりラムの香りがした。
 「ラムの香りがする」
 デイビットはそう呟いて、ねろりと指を嘗めた。
 「っ…。」
 セバスチャンは眉を顰め、ぞくりとする感覚をやり過ごした。しかし、その表情や、かすかな仕草が目の前の男を煽っていることを彼は気づいていない。
 「ドライフルーツをつけていたからな」
 セバスチャンはそう言って、デイビット手を振り払った。
 セバスチャンは今年も大量にシュトーレンを焼いたし、当主であるデーデマンを筆頭に一日一切れといわず、かなりの量を食べていた。
 『焼いても焼いても追いつかん』
 そう、セバスチャンが口にしていたことをデイビットは思い出した。
 「来年の分?」
 怒られても懲りないデイビットは、セバスチャンのタイを外し、時折悪戯を仕掛けながら聞いた。
 「いや。再来年か、もっと先だな。今日つけたのを使うのは」
 デイビットの悪戯に働く手をペチッと叩きながら、セバスチャンは漬け込んだフルーツを思い浮かべた。今日は、プルーン、レーズン、ドライチェリー、バイナップル。あとは、蜜リンゴにナツメヤシ……。
 「そんなに――?」
 「あぁ。時間が立てばたつほどうまくなる」
 セバスチャンはそう言って、かすかに笑った。
 『いいこと。フルーツはね、漬けてから時間が長ければ長いほどおいしいのよ』
 幼い頃、母が漬け込むフルーツを見ていた時のことだ。「すぐ使うのか?」と聞いたセバスチャンに、母はそう言って、微笑んだ。
 「ハニー…」
 「っ」
 囁きと共にふいに強く抱きしめられて、キスされて。セバスチャンは抗う暇もなく、情熱的なキスにのめりこむ。
 「っあ」
 「さっき、とろけそうな顔してたけど?」
 デイビットは言葉を切り、視線で言外に、何を考えていたのだと問い掛けた。
 「他愛もないことだ」
 今は別の意味でとろけかけているセバスチャンに冷たくあしらわれて、デイビットは少し、拗ねた顔をしていじけてみせた。
 「俺には秘密なのか?」
 「そういうわけじゃない。ただ…」
 視線を彷徨わすセバスチャンを、デイビットはぎゅっと強く抱きしめた。
 「…ただ?」
 「俺も昔、同じ質問を母にしたことがあった。それだけだ」
 「だからこの手を離せ」と、隙あらば悪戯に動くデイビットの手を、セバスチャンは引き剥がしに掛かったが、一瞬遅く。
 「かわいいなぁ、ハニーは」
 「デイビット!」
 抗議の声も間に合わず。
 「愛しているよ、ハニー」
と、囁かれ、ベッドに引きずり込まれた。





 次の日の朝、不機嫌なセバスチャンと、上機嫌だけど顔に痣をこさえたデイビットが、セバスチャンの部屋から出てきたのをツネッテは見た。






END



実は、指先にキスをするデイビット氏を書きたかっただけというか、ただそれだけのネタです。
2008.1.2 かきじゅん

年末年始企画小説でした。
2008.4.4にNOVELに再アップ。