「水を嫌ってほどかぶりたいんなら、市民プールに行け」
ヘイヂがエアコンを壊して、地下水脈を掘り当ててから数日。
水浸しとなったデーデマン家も、本来あるべき姿へと戻った。
Bはタオルを首にぶら下げながら、廊下を歩いていた。隣にいるのは同じ使用人のA。
水浸しになったのも、エアコンが壊れて暑いのもヘイヂの所為であるが、Aが当主・デーデマンと「水をかぶりたい」などとほざかなければ、このくそ暑い中、余計な仕事をせずに済んだものを。と、Bはキレていた。
「ごめんなさい…」
かつてないBの逆鱗に触れ、Aはここ数日おとなしい。暑さの為、通常より5割増で機嫌の悪いセバスチャンが屋敷内を闊歩している所為かもしれないが…。
「だいたい、旦那様と一緒にお前が遊びほけてどうするんだ!」
「はい」
「このくそ暑いのに、セバスチャンの仕事をこれ以上増やすな!」
「…はい」
「暑いのは誰だって一緒…」
「って、プールあるの!?」
Aは突然、Bのお説教を遮った。
「はっ?」
「だから、市民プールにでも行けって」
Aはさっきのしおらしさはどこへやら。キラキラと目を輝かせている。
「フラン○フルト市民プール!その手があったかっ!!」
背後から声がして、AとBは振り返った。廊下の片隅にいた軟体動物が、ふふふと無気味な笑いを漏らしながら立ち上がった。
「旦那様っ!?」
「いけばよかったんじゃん。プール!」
さっきまで軟体動物とかし、屋敷の一番涼しいところを捜し求めて徘徊していた人とは思えないほどデーデマンは意気揚揚と高笑いした。いざ行かんとばかりに、デーデマンが走り出そうとした瞬間。
ゴインッ!!
奇妙な音がして、デーデマンがゆっくりと倒れた。デーデマンの背後に立っていたのは、いわずとしれた最強執事のセバスチャン。
「市民プールに行く前に、仕事は片付けてくださいね。旦那様」
後頭部に巨大なこぶを作ったデーデマンを抱えて、ゆらりとセバスチャンは消えていった。
「まぁ、B。旦那様、大丈夫なのかな…」
「さぁ。大丈夫なんじゃないか。エモノもおもちゃみたいだし」
セバスチャンが去った後には、意味深にヨーヨーが一つ落ちていた。
――お前は俺のものだから。
翌日、みんなでプールに行くこととなったデーデマン家一行。
「やっぱり混んでるよな」
Bは地元だけあって、「予想はしてたけど」と呟いた。
芋の子を洗うごとくひしめき合う人・人・人。
「まぁ、夏休みだしな。こんなもんか」
セバスチャンはそういい、ちらりとデーデマンを振り返った。
「プール、プール」
「もう一息ですよ、旦那様!」
デーデマンは鼻歌を歌いながら、Aと一緒にうきわをふくらませていた。
「ねぇ、デーデマン様じゃない?」
「ホント」
ちらほらと、マダムが振り返る。しかし、デーデマンはお構いなしと言うか、気づいていなかった。セバスチャンにデイビットとという、フラン○フルトの隠れスターがいるのだ。嫌でも目立つし、デーデマンはそういった視線に慣れすぎていた。
「よーしっ!行くぞ、A君」
「はい!」
しっかりとふくらませたうきわを手に、デーデマンはAと共に駆け出していった。
「旦那様っ!プールサイドを走ると危ないですよ!!」
ツネッテが注意したにもかかわらず、デーデマンは水で滑ってこけた。が、また、すぐに走っていった。ちなみに、こけたのが恥ずかしかったのだろうか。耳が赤かった。
「ハニー、旦那を救護室に連れて行かなくていいのか?」
「仮にもあの屋敷の当主なんだ。大丈夫だろう」
少し心配げに、デーデマンの後姿を見守っていたデイビットだが、セバスチャンは気にする様子もなかった。たしかに、あの屋敷の爆発の原因の半分以上が、デーデマンの仕業である。
「それもそうだな」
妙に納得したデイビットは、うんうんと深く頷いた。
「俺たちも泳ぐか」
セバスチャンが着ていたパーカーに手をかけた。
「あの…」
「HEY」
デーデマンの身体の耐久性について考察していたデイビットは、声をかけられて振り向いた。そこには、若い知らない女性。
「デイビットさん…ですよね?」
「そうだけど」
デイビットがにっこり笑うと、そこかしこから「キャァァァ!!」という声が…。気が付けば、女性が群れをなしていた。
「……」
そんな期待のこもった眼差しで見られても、俺はハニー一筋なんだけどな…。と、デイビットは小さく呟いたが、誰も聞いちゃいなかった。
一方、セバスチャンも、気がつけば人だかりが出来ていた。否、ほっといたら出来ていた。ちなみに、こちらはデイビットと違って、なぜかちらほらと男の姿があった。
「もしよければ、私と…」
「この子なんかじゃなくて、私と…」
「僕と、こんなプールじゃなくて…」
次から次へと押し合いへしあいで、寄ってくるので、うっとおしいことこの上ない。仕事中ならうまくまとめるであろうセバスチャンだが、今は一応、プライベートである。
「デイビット」
セバスチャンは小さく舌打ちをしてから、デイビットを呼んだ。
「なんだ?ハニー」
デイビットが振り返ってセバスチャンを見た。
その瞬間、首に手がかかり、セバスチャンの方に引き寄せられる。
「ちょッ!」
「うるさい」
行動を問いただす暇もないほど急性に、キスをされた。
まぁ。いいか。せっかくハニーからキスをしてくれているのだから。と、楽天的なデイビットはセバスチャンの腰に手を回し、引き寄せた。
「ハニー?」
「…これで、うるさい虫もいなくなるだろう?」
至近距離できらめいたサファイヤの瞳は、面白がっているようにも苛立ってるようにも見えた。
「俺のものは俺のもの。お前のものは、俺のもの。したがって、お前は俺のものだからな」
ようするに、女性が群れをなしていたのも、それにデイビットが受け答えをしたのも気に食わないということらしい。
「仰せのままに」
デイビットはウインクをして、セバスチャンをもう一度キスを仕掛けた。
目を閉じる瞬間、時に言葉よりも雄弁に語るセバスチャンのサファイヤの瞳が、うれしそうに揺らめいた気がした。
じっくりとキスをして周りを見ると、周りの人だかりは消えていた。そのかわり、カメラを構えているツネッテと、ため息をついているBがいた。
「よし。泳ぐか」
セバスチャンは何事もなかったかのように、今度こそパーカーを脱ぎ捨てた。しかしその耳は、ほんのりピンクに染まっていた。
END
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あとがき
「栗落花。」の浅葱さえ様との相互リンク記念です。浅葱さえ様のみ、お持ち帰りOKです。
こんなんでよければ、貰ってくださいまし。
プールとのことで、リクをいただきまして、色々妄想しすぎた結果、微妙なデビセバで落ちがついてしまって申し訳ないです…。
妄想の一例としては、子供用プール(なんとなく)とか、ホテルのプールを貸切(危うく裏)とか、テーマパークに慰安旅行に行く(異様に長くなったので放置)とか…。家族全員に「デーデマン家でプールと言えばっ!」などと質問しまくったせいでしょうかね。母の意見がかなり現実的で、「プールはあったけど、デーデマン母がロケットランチャーでぶっ壊した」といってました。たしかにあり得る・・・。
ちなみに、かきじゅんの中では、セバスチャンは女王様なんですね。しかも、対デイビットの際には、女王様度がアップされていると思うんですけど、どっち視点で書いても微妙だなぁと思いました。
06.7.25 かきじゅん