いつでも、空を見上げてね。



 私はふぁきやのためだけに瞬くから。







 お星様キラキラ







 「あひる」
 名を呼ばれて見上げると、大きな手で抱き上げられた。
 「ぐぁ(ふぁきや)」
 「いいから。おとなしくしてろ」
 「……」
 実際、本当は歩くのもつらかった私は、ふぁきやの腕に言葉どおりおとなしく収まった。
 見上げると、ちょっとドキドキしてしまう。
 ふぁきやは、本当に大きくなった。そりゃ、私が鳥の『あひる』に戻っちゃって、ちいさくなっちゃっただけかもしれないんだけど。
 それから、カッコよくなった。大鴉との戦いのときには、まだ幼かった顔はもうすでに青年の顔。
 私は、小さくふぁきやに気づかれないように溜息をついた。足が、羽が、イタイイタイと悲鳴をあげる。全身が重たくて、つらい。
 ただの『あひる』に戻ってしまった私は、ふぁきやとのんびり暮らしていた。穏やかに季節の変化を肌で感じ、ふぁきやの傍で過ごす時間は、あたたかくて幸せだった。プリンセス・チュチュになれないことも、人の形をしていないことも関係なかった。
 ただ、ふぁきやの傍にいられれば幸せだった。
 ――でも。
 「どうかしたのか、あひる。最近元気が無いようだが…」
 「ぐぁぐぁぁ(なんでもないの)」
 バサバサと羽ばたかせて、慌てて否定する。
 ふぁきやはそんな私をじっと見てから、ちょっと何かいいたげな感じだったけれど、
 「……ならいい」
と、ぽつりと言った。ふいっとそらされた目は悲しそうで、胸が痛かった。
 ――そんな顔しないでよ、ふぁきや。
 そんな顔をさせてしまっているのは自分だというのに、自分勝手な私はそう思ってしまう。
 でも言えないよ。
 今年の春は、一緒にいれないなんて。
 鳥と人の寿命は違うから。私、もうすぐ死ぬんだ…なんて――。



 

 暖炉でパチパチと薪がはぜた。
 ふぁきやは、今も物語を書きつづける。その横顔を見ながら、暖炉の前でウトウトするのが私は好きだった。
 もう、どこもかしくも痛くて、顔を上げるのも大変。
 それでもふぁきやの顔を見ていたくて、私は必死に起きていた。寝たら、もう起きれないような気がしたから。
 何も知らないただの『あひる』だった頃は良かった。
 プリンセス・チュチュになれた頃も、こんな日がずっと続くと思っていた。
 物語は永遠に続くんだって…。
 でも、そうじゃなかった。
 物語には、いつだて結末がある。
 大鴉が永遠じゃなくて、真実の愛に目覚めた王子に倒されたように。
 王子が、自身と未来を取り戻したように。
 そして、物語の終焉と共に私が鳥の『あひる』に戻ったように。
 でも、ただのあひるに戻っても、ふぁきやと過ごせて私は幸せだった。
 いつだって、ふぁきやは私を大切にしてくれた。
 もう、女の子のあひるでもなく、プリンセス・チュチュでもなかったけど、いつだって一緒にいた。
 ――大好きだよ。
 そう、人の言葉で伝えられなくても、ふぁきやは微笑んでくれた。
 大きな手で抱き上げて、その胸に抱いてくれた。
 あぁ――。
 目がかすんでいく…。
 私はふと、窓から外を見上げた。いつしか太陽は沈んで、夜の帳が降りてくる。
 「ぐぁ(ふぁきや)」
 「どうした、あひる?」
 「ぐぁぐぁ(ねぇ、見て)」
 ひとつ。ふたつと滑り落ちる流れ星。
 「くぁ…(キレイ…)」
 「そうだな」
 ――お星様。願いがかなうなら、私も空に上がりたいの。それで、ずっとふぁきやを見守っていたい。
 そんなことを願いながら、私は空を見上げた。
 「ぐぁ、ぐぁぁ(ねぇ、ふぁきや)」
 「ん?」
 微笑んで、ふぁきやが振り向いた。
 「くぁ、くぁぁ(いつでも、空を見上げてね…)」
 「…あひる?」
 ふぁきやが、怪訝な顔をする。
 そんな顔しないで。
 笑っていて。
 私、ずっとふぁきやといれて幸せだったよ。
 「くぁ(きっとね)」
 ――私、ふぁきやのためだけに瞬くから。
 「ちょっ…!あひる!」
 ――きっとだよ、ふぁきや。
 今までありがとう。
 大好き…。




 もうすぐ夜の帳が降りようとしているのに、ふぁきやはずっと、池のほとりで佇んでいた。
 傍らには、小さなお墓。
 「あひる」
 とおしげに、悲しげに名を呼ぶ。
 「俺もお前を大好きだったよ」
 小さな野の花でつくられた花束が、風で揺れた。
 次第に濃い色で包まれていく空を、ふぁきやは見上げた。あひるが死んだ晩も、こんな夜だったとふぁきやは思い出す。
 ふいに、チカチカと瞬く星を見て、ふぁきやは微笑んだ。

 ――ふぁきや、いつまでも笑っていて。
 
 そう言って、笑っているあひるが見えたように気がしたから…。





 END



二周年記念にするか悩んだ結果、二周年記念としてアップすることにしました。
プリンセスチュチュやっぱり好きだなぁ・・・と再実感。
2008.2.10

2008.3.24 NOVELに再アップ (フリー期間終了です。ありがとうございました)