眠れない夜
寝そびれたと言うか、起きてしまったというか。微妙な時間と、感覚。
時計は23:30。
今日の見回り当番はAだったので、珍しく早い時間にベッドに入ったのに、この時間ってどうよ?時間の無駄以外の、なにものでもない様な気がした。
そろそろ寝ないと、朝が辛い。そう、気は急くのに、睡魔は一向にやってこず、寝 返りばかりうつ。
身体はだるく、疲れたから休もうと訴えているのに、頭だけがやけに冴えている。
……寝れないときは寝れない。
大きく溜息をついて、ベッドから抜け出した。
「飲むか…」
小さく呟いて、戸棚を開けた。こんな日は、酒の力を借りて寝てしまおう。
昔とった杵柄というやつか。そこそこの種類をいつの間にか揃えてしまっていた戸棚には、何種類かのカクテルを作る分には、申し分ない程度の酒の種類が並んでい る。
とりあえずグラスと、ジンを取り出した。
「氷…」
どうしようかと迷ったのは一瞬で、厨房で氷を貰ってこようと、そっと部屋を抜け出した。
「何をしているんだ?B」
「セバスチャンッ!?」
少し大ぶりのグラスに氷を入れ、厨房を出ようとしたら、セバスチャンがいた。
「何って…。セバスチャンこそ、何をしにここへ?」
いつもはぐっすり寝ている時間になのに…。とは、口には出さない。
セバスチャンは、俺の手の中にあるグラスの氷と見た。
「寝つきでも悪かったのか?」
クスクスと笑って、セバスチャンを見上げた。
「そんなところですよ。酒の力でも借りようかと…」
「俺も似たようなものだ」
「酒では酔わない人なのに?」
「暑いしな。それに、酒は好きだ」
そう言って、セバスチャンは苦笑した。よくみると、風呂上りなのか、髪が濡れている。
「一緒に飲みますか?」
声をかけると頷いて、セバスチャンはくしゃりと俺の頭を撫でた。
「ちょっと待ってろ。つまみを作ってやる」
「じゃあ、酒はまかしといてください」
そう言って、俺は酒の準備をするべく自分の部屋に戻り、セバスチャンは厨房へと入っていた。
久々にシェーカーを出した。学生時代にバーテンにあこがれて、買ったものだ。ステンのシェーカーはきれいに磨いており、光にあたって銀色に光る。
何を作ろうか…と、戸棚を見ながら悩む。
カチャリとドアが開く音がして、振り返るとセバスチャンが器用に、片手に皿を3枚ものせて入ってきた。
「何を作ったんです?」
「キュウリのサワークリーム和え」
簡潔な答えと共に、セバスチャンはテーブルに皿を並べた。スモークサーモンに、オイルサーディン。プレーンクラッカーと、クリームチーズ。そして、キュウリのサワークリーム和えに、ミニトマトとオリーブが、ちいさなガラス容器に入っていた。
「オリーブがあるなら、マティーニでもつくりましょうか」
そう言って、カクテルグラスをふたつ取り出した。戸棚から、ドライベルモットの瓶を出す。
「そんなものまで置いているのか?」
「趣味ですよ」
少し驚きの表情のセバスチャンに、なんでもないことなのにと思う。普通だし。
ジンとドライベルモットをきっちり計って、ミキシンググラスいれ、軽くステアする。
カクテルグラスに注いで、オリーブを飾れば完成だ。
セバスチャンにマティーニ差し出すと、グラスを目の高さまでかかげた。
「乾杯」
寝間着なのに、そういう仕草が様になる人というのも、そうそういないだろうと半ば感心してしまった。
「お疲れ様でした」
兎にも角にも乾杯して、グラスに口をつけた。
「マティーニの飲み方をしっているか?」
飲んでいたセバスチャンが、ふと立ち上がった。
「知ってますよ…」
顎を持ち上げられ、上を向かされる。
変なところで親父くさいというか、ロマンチストというか…。けっして短くはない付き合いなのだ。次にされる行動ぐらいなら予想がついた。
セバスチャンは案の定、マティーニを口に含んだ。それから、ゆっくりと口づけが降りてきた。
「んっ…」
ゆるくあいた唇から、マティーニが注ぎ込まれた。
一緒に入ってきたオリーブは、二人の間をいったりきたり…。
「…こういうときだけ、親父くさいですよね」
程なくしてオリーブはセバスチャンによって噛み砕かれ、俺は少しだけ悪態をついた。
「そうか?」
セバスチャンはそう言って、シェーカーに手を伸ばした。ウオッカ、ホワイトキュラソー、ライムジュースをきっちり計って入れる。
「作ってくれるんですか?」
「ああ」
どうやら、ものごく機嫌がいいらしい。氷を入れてシェイクする立ち姿は、寝間着なのに、やっぱりさまになっていた。
こんなふうに、セバスチャンと酒を飲めるのなら、眠れない夜も、悪くない……。
そう、ちょっとだけ思った。
END
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あとがき
やぐるま屋の七隈てん子様との相互記念です。七隈てん子様のみお持ち帰りできます。
七隈てん子様ありがとうございました。
っていうか、微妙にエロくてすいません…。
ちなみに、マティーニはカクテルの王様といわれています。かきじゅん、初めて頼んだカクテルはマティーニとXYZでした(笑)。
最後にセバスチャンが作っているのは「カミカゼ」というカクテル。日本の神風特攻隊のように、鋭い味がすることからこの名がついたそうですよ。
しかし、B君がバーテンのバイトをしていたらきっと似合うに違いない…。
06.8.1 かきじゅん