私たちは夫婦は政略結婚。
 でも私は玄徳様が好きで、玄徳様も私のことを常に心配してくれている。
 兄様達には悪いけど、私はやっぱり玄徳様が好きです。
 けれど私はあまり、蜀に馴染めてない。
 法も分からなければ、玄徳様の妻として恥じぬような振る舞いをしなければならない。
 それに、ほとんどの人が私を疑っている。


   
小さなお花畑  


 孫尚香と劉備は無茶苦茶強引に駆け落ちしてから、蜀は本格的な改革を進めていた。
 ほぼ部外者扱いの尚香は、最近不満だった。
 教えてもらえないのは仕方ないが、玄徳様と話す時間もかなり減ってしまった。暇つぶしに人気のないところで武芸の稽古をしてみたり、勝手に城内を探索しても見たがどれもいまいちだった。
 何もすることもなく、昼過ぎの空を見た。
 そんな尚香の姿を、廊下の隅からのぞき見る少年がいた。
 阿斗である。
 阿斗は父・劉備から、『尚香を妻として娶った。母として慕え』と言われていたが、未だに口もきけずにいた。
 そんな阿斗の側に、張飛の娘・星彩がいた。
 「何で声をおかけにならないのですか?」
 星彩が阿斗に聞いた。
 「なんと言えばいいのか、分からないんだ・・・」
 阿斗と星彩は、数日前から同じような会話をしている。
 そんな二人に尚香が気付かないはずもなく・・・。
 (またあの隅に二人いるわ・・・)
と思っていた。
 いつもは二人が何か言い合っているうちに、どこか別の場所に移るのだが、今日は私の暇つぶしに付き合ってもらうことにした。
 尚香は二人が目を離した隙に、後ろに回り込む。
 (今日はそれだけじゃないんだから!)
 後ろに回り込みながら、心の中で言う。
 二人は尚香がそこからいなくなったことに気付き、酷く落ち込んでいた。
 星彩は落ち込んで泣き出しそうな阿斗を、頭を撫でて慰めてやる。
 (今だっ!)
 今が好気と尚香は二人の後ろから現れ、声をかけた。
 「二人とも、ここで何をしてるの?」
 「えっ・・・」/「あっ・・・」
 二人とも変な声を上げ、先ほど尚香がいたところと尚香を何度も見た。
 そんな行動をする二人が、かわいくって仕方なくて、尚香は忍び笑いをした。 
 「あの・・・」
 星彩が恐る恐る声をかけてきた。
 「なあに?」
 そう言うと星彩は俯いてしまった。
 どうやら尚香が怒っているように見えたらしい。
 (私怒ってないのにな・・・)
 内心拗ねながら、腰を落とした。
 目線を阿斗と星彩に合わせてやる。
 阿斗は何か言いたそうに、金魚みたいに口をぱくぱくさせている。
 「ん?」
 顔を覗き込んで、怒ってないよ。と笑って頭を撫でてやる。
 阿斗と星彩は互いの顔を見合った。
 何かを決意したのか、二人は笑顔を尚香に向け、尚香の左腕を星彩が、右腕を阿斗が引っ張った。
  「どこか行くの?」
 尚香がたずねた。
 「うん」
 二人は笑って頷いた。
 阿斗が不安そうに
 「行きたくない?」
と尚香に聞いてきた。尚香は笑って、
 「いいわよ、行きましょう!」
と言うと、阿斗は実に嬉しそうに笑った。


  城内は隅々まで探索して遊んだつもりだったが、これには尚香も驚いた。
 「すごい・・・」
 それは小さい花畑だった。
 とても力強く咲いていて、綺麗な花だと思った。
 「毎年この時期に咲くって聞いたの。」
 星彩が説明した。
 「阿斗様が尚香奥様に見せたいって」
 尚香は阿斗を見た。阿斗の顔を真っ赤で、恥ずかしいらしく俯いてしまった。
 「ありがとう、阿斗・・・」
 尚香は阿斗を抱きしめた。
 「ありがとう、星彩・・・」
 そう言うと、星彩も自分の腕の中に抱きしめる。
 阿斗も星彩も尚香に抱きついた。
 その時阿斗の口から「母様」と聞こえた。
 尚香は嬉しくって、優しく二人に微笑んだ。


  その夜、久しぶりに劉備と食事をした。
 最近忙しく、一緒に食事をする時間もなかったことを思い出した。
 「尚香、久しぶりにそなたと食事だな」
 劉備はすまなそうに言う。
 「ええ、そうね。でも玄徳様のせいじゃないわ」
 尚香は笑って言う。  
 その笑顔でつられて劉備も笑む。
 「玄徳様、今日ね。阿斗と星彩とお花畑行ったの」
 劉備は驚いて、
 「阿斗と?」
と聞き直した。
 「ええ、そうよ。すごく綺麗な花畑だったわ」
 尚香は思い出しながら言う。
 「ちょっと小さかったけど」
 付け足した。
 「そうか、それは良かった。阿斗は人と話すのが苦手らしく、心配してたのだ。尚香も、蜀の皆と上手くいってない様子だったから、心配だった」
 「玄徳様・・・」
 自分のことをこれまで心配してくれていたことに嬉しかった。
 「尚香、阿斗と上手くやってくれているようで、嬉しく思う」
 劉備は優しく微笑んだ。それに答えるように尚香も微笑んだ。
 「玄徳様、今日阿斗が『母様』って呼んでくれたわ」
 そう言うと、尚香は劉備の手を掴んだ。劉備も答えるように尚香の肩に手を回した。
 「いい匂いだ・・・」
 おそらく花の香りだろう。
 「今度は一緒に行きましょう、玄徳様」
 「ああ、そうだな」
 そう言うと、劉備は尚香の肩に顔を埋めた。


 END  


 ☆オマケ☆

 「阿斗様、良かったね」 
 「うん」
 「次は何処に誘うの?」
 阿斗は頭を悩ませた。星彩は黙って答えを待つ。
 「胡瓜?」

  


劉備×孫尚香が書きかたくて仕方なかったんです。
やっと、やっと書き終えることができました。
ちなみに胡瓜は夏だからです。秋だったらサツマイモだったかも知れません。
本当に劉備は畑耕してそうな、小説だな、コレ・・・。
06.7.6天神あきな