きっとどんなことがあっても、笑顔になれる場所。


 それは、大好きなひとのそば――。





 もうちょっとだけ、知らないふりをして。





 「ヴァルガーヴ」
 名を呼ばれて、少年は振り返った。
 金色の豊かな髪が、風に揺れて光をはじく。
 ヴァルガーヴは眼を細めて、まぶしいぐらいのその光景に一瞬見入った。
 「こんなところにいたの」
 「うん」
 目を眇めて優しく微笑むフィリアに、ヴァルガーヴは微笑んだ。ヴァルガーヴにとってフィリアは、自分の養母でもあり、姉のようでもあり。それから、大好きなひとだ。
 「風邪、ひくわよ」
 そういってフィリアは、寒がりのくせに自分のショールをヴァルガーヴに着せかけた。早春とはいえ、まだ寒い。今日はいささか春めいてはいたが、時折冷たい風が頬をかすめる。
 「いいよ」
 「よくないわよ。風邪をひいたらどうするの」
 「寒いの、ヘイキだって」
 知っているだろう。言外にそういっても、フィリアは頑として聞かず、
 「それでも、よ」
と、言ってヴァルガーヴの首にぐるぐるとショールを巻いた。
 ヴァルガーヴが寒い大地で生まれ、暮らしていたエンシェントドラゴン族の最後の生き残りなのは、フィリアはもちろんのことながら、ヴァルガーヴ本人も、うすうすは知り初めていた。フィリアがいつそのことを話してくれるつもりなのかはわからないが、ヴァルガーヴはもう少し知らないでおきたいと思う。
 もちろん、すべてを知りたいと思う気持ちがないわけではない。
 でも、今の関係が壊れるのが怖いのだ。
 フィリアと、優しく穏やかな時間が流れる日々に終止符が打たれるのが。
 だから、もう少しだけ…。
 きっとどんなことがあっても笑顔になれる、フィリアの隣という場所を失いたくないから、もう少し。大人になるまで。
 「用事、終わったの」
 「ええ。バッチリいいお値段で買ってもらったわよ」
 そういえばどうなった?と聞くと、フィリアはガッツポーズで報告してくれた。そんなフィリアを見て、ヴァルガーヴは思わず吹き出した。
 笑っていると、どこからか優しい風が吹いて。
 『そんなに焦ること無いんじゃないの?なにがあったって、大丈夫よ』
と、微笑むリナの姿が、ヴァルガーヴには一瞬、見えたような気がした。


 END



あとがき
 はにコネ3周年企画ということで、小説はテーマを決めて書かせて頂きました。
 今回は「大好きなひとのそば」。
 スレイヤーズからは少し大きくなったヴァルガーヴと、フィリアさんです。微妙な距離感が個人的には好きです。
 2009.2.20 かきじゅん
 2009.4.25 NOVELに再アップ。