町はそわそわとした女の子たちがさざめいていた。
なにかあったか…?
そう、うすぼんやりと考え事をしながら、俺は大通りを歩いていた。女の子たちの
うれしそうな顔。通り過ぎる人たちを見ながら歩く瞬間は、意外と楽しくて好きだ。
俺は一つの商店の前で足を止め、ドアを押した。
カランコロンと軽やかな音。
「いらっしゃい」
老夫婦が切り盛りするこの店は、温かい感じがしてよく利用する店の一つだ。
「どーも」
軽く会釈して、俺は店内へと足を進めた。目についたのは、カラフルにラッピングされたチョコ。
「ぁ…」
なるほど。と、心の中で呟いて、俺は口元を緩めた。
女の子たちがそわそわと、でもうれしそうにしていた理由がわかった。バレンタインディだ。
微笑ましいものだ。と、ほんのりあたたかい気持ちになった。
メッセージカード
「どうしよう…」
あの後、頼まれた買い物のほかに、リンツのビターチョコを買い、別の雑貨屋で製菓用のグッズと一緒にラッピング用品も買った。そして、露天でキレイなメッセージカードを一つだけ買った。
何もかかれていない淡い色合いのメッセージカード。
買ったときはよかったのだ。
こっそりと、ラッピングしたときもよかったのだ。
でも、いざ渡すとなるとどうしたらいいのか分からない…。
むしろ、どういう顔で渡せというのだろう。
「はぁ」
溜息をついて、窓を拭く手を止めた。うすく、どんよりとした空は、まるで今の俺の心のようだと思った。
カサカサとポケットのチョコレートの包装が微かな音を立てる。
「こんなもの、あげてもしかたないよな…」
そう小さく呟いて、そっとポケットの上からチョコレートに触った。
「B」
突如として、Aに呼ばれてドキッとする。
「どうしたんだ、ぼうっとして」
「いや。なんでもない」
ホンの少し心配そうなAに聞かれて、俺はゆるゆると首を振った。今は仕事中だから、考えるのをやめようと、ポケットの上から手をどかした。
気がつけば夜になり、俺は自室で溜息をついた。
めずらしくユーゼフ様は現れず、業務もとても平和に、滞りなく終わった。
結局渡せなかった、チョコレートが所在なさげに机の上に乗っている。
「なにしてんだろ…」
自嘲して、カードを指でなぞった。
「一人で、バカみたいだ…」
このチョコレートを買ったとき感じた、あたたかな気持ちなんて微塵も残っていなかった。
俺はあの人に何を期待していたのだろう。
この屋敷に来て、「僕にはくれないの?」とか聞いてくれるとでも思っていたのだろうか。
でも、もしかしたら…。
もしかしたら、今でもなお、来てくれるんじゃないかと心の中で期待する自分がいる。拒否されるのが恐くて、自分から動けないでいるくせに。
「…喜んで欲しかっただけ……なのにな……」
ポツリと呟いて、時計を見た。
もう少しで12時になり、日付が変わる。
「ユーゼフ様のバカ…」
俺はそう言って、ボスンと枕に顔をうずめた。
時刻は草木も眠る丑三つ時。
どこからともなく現れたユーゼフは、目ざとく机の上に置かれたチョコとメッセージカードを見つけた。
「おやおや」
目を細めて、花が綻ぶような笑顔でクスクスと笑った。
メッセージカードには、
『Dear ユーゼフ様
―――好き。
From B』
と書かれていた。
「うれしいね…」
そして、Bのベッドに近づき、あどけない寝顔のBにやさしくキスを落とした。
「ん…」
しかし、気持ちよさそうに眠るBが起きる気配はない。
「ありがとう、B君」
ユーゼフはそう囁いて、そっとBの髪をすいた。
ふいに頬をくすぐると、ぎゅっと握られる手。
「……朝までいてあげるよ、君にお礼を言いたいからね」
ユーゼフは幸せそうに苦笑して、もう一度眠るBにキスをした。
END
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はにコネ一周年、ありがとうございます!!。
バレンタインなのは、時期柄なので…。
一応、B君はユーゼフ様ショックから立ち直り、何故か恋人同士です(笑)。
2007.2.6かきじゅん
はにコネ一周年記念小説でした。フリー期間は終了しました。ありがとうございました。