淡く軽やかに。
陽の光のもとで。
ひらりひらりと。
さくら舞う季節
「ふぁ……っ」
ポカポカ陽気につられて大きなあくびを一つして、ユーリは教室の外を見た。
綻びはじめた校庭の桜の木は、もう少しかかりそうである。
新入生が数日前に入学し、学校のなかはザワザワとどことなく騒がしい。
黄金週間がおわる頃には、新入生たちも学校になれ、その喧騒も徐々に落ち着くし、こちらも慣れてくるというものだ。昨年の上級生たちもこんなふうに思っていたのだろうか、自分たちのことを。
そんなことをツラツラ考える程でもなく、あえて言うなら、そんな物思いに耽っていたユーリは、無意識であるが口元を綻ばせた。
水洗トイレから流されたり、人類の敵になっちゃったり、魔王になったり、旅をしたり、たくさん色んなことがあった。それから、たくさんの出会いもあった。
つい一年前に中学校を卒業して、高校に入学したと言うことが、遠い昔のようだ。
「渋谷、なにもの思いに更けってんだよ」
クラスメイトに声をかけらた。
「や、桜が満開だなって。雨が降ったら一気に散っちゃうだろうけど」
「ほう…。それにしては、突然笑ってみたり、考え込んでみたり、百面相してたよな」
「えっ。俺、そんな顔してた?」
ニヤリと笑うクラスメイトに、ユーリは自分がどんな顔をしていたのか、少し恥ずかしくなった。
「まぁ。俺たちは、面白おかしく堪能させてもらったけどな。渋谷の百面相」
「そうそう。渋谷君は、黙っていれば美人なんだから。たまにはそうやって、目の保養させてもらわなくっちゃ」
おちゃらけた言い方をした男子に、ケラケラと女子も会話に加わってきた。
「美人!?目の保養?!そんなん、俺を見ても仕方がないだろう」
目を見開いてびっくりして、ついでに頭を激しく振りながらユーリは否定するが、クラスメイトはその反応すら面白がりながら、
「だから、黙っていれば。よ」
「そういや、最近。渋谷はみょーに大人っぽくなったよな」
「彼女でもできたのかよ」
と、ユーリを取り囲んだ。
「彼女いない暦イコール歳の数だけだよ。そもそも、美人ってのは俺みたいな野球小僧に使う言葉じゃないだろ」
むう。と、ユーリは少し膨れながらも律儀に説明する。そうしていると、年より幼く見えるのに、時折、ドキッとするような大人の顔をしている時がある。それがなんなのかは、クラスメイトたちにはわからないことではあったけれど。
「渋谷〜。村田が呼んでるぜ」
通りすがりの同じ中学校出身の同級生に声をかけられ、ユーリは目を輝かせた。
「マジ?どこで」
「校門だよ。なに、おまえらつるんでたんだ」
「草野球のマネージャーをしてもらってるんだ。サンキューな、伝言」
にぱッと笑って、ユーリはバタバタと簡単に机を片付けて、カバンを掴んだ。
「じゃ、またな」
「バイバイ」
嬉しそうに駆けていくユーリの姿を、クラスメイトはなんとも形容しがたい気分で見送った。強いて言うなら、自分が遊ぼうと思っていたおもちゃを先に誰かが持っていってしまったような。また、ユーリだけが先に大人になっていくことへの羨望だったのかもしれない。
「村田」
「渋谷。そんなに急がなくてもよかったのに」
教室から全力疾走してきたらしいユーリに、村田はほんのり苦笑した。
「だって、待たしたら悪いだろう」
「僕が勝手に来ただけなのに?」
「俺を迎えに来てくれたんだろう?」
疑問系を疑問系で返し、返されたユーリと村田は、ぷっとふたりで吹き出した。
「なかなかやるじゃないか、渋谷も」
「だって、事実そうだろ?それになんとなく、村田が来るような気がしてたからさ」
ニッコリ笑って、さらりとすごいこと言うのが、渋谷のスゴいトコだよ。と、村田は小さく呟いた。
ユーリは教室の窓から見ていた桜の木を見上げて、
「中学校の入学式はちょうど満開でキレイだったよな」
と、目を細めた。
その目は、ひらりふわりと舞う桜の向こうを見ていた。
「なぁ、眞魔国にも桜ってあるの?」
「僕がいた頃にはなかったけどね。今はあるんじゃないかな」
くすっと笑って、村田はユーリを見た。
「昔はなかったんだろして。なんで、今ならあるんだよ?」
「向こうに行けばわかるよ。そろそろ呼びだされる頃だろう」
意味深に村田は微笑んで、桜を見上げた。
中学校の入学式で、大きくてダブダブの学ランに身を包み、やや緊張気味だったユーリは、桜の木の下で母親との記念撮影の段になると、子供っぽい表情で。くるくると変わる表情に村田は釘付けだった。次の魔王になる子供という認識よりも、彼のくるくると変わる表情をずっと見ていられるポジションにありたいと願ってしまった。
一瞬で、魅了されてしまったのだ。だれもが引き寄せされる、あたたかな光を帯びた魂に。
「グレタ、どうしてるかな…」
「元気にしてるだろう、グレタのことだから」
「そうだな」
頷いたユーリは、また桜を見上げた。
その黒い髪に、はらりふわりと桜の花びらが舞い降りた。
それはまるで、桜の精が異世界の魔王を歓迎しているようだと、村田は思った。
「向こうにも桜があるなら花見ができるな」
「渋谷の場合は花より団子だろ」
「まあな」
くすっと笑って、ユーリは村田を促した。二人は肩を並べて、歩きだした。
桜は、そんなふたりを名残惜しむかのように、さわさわと揺れた。
END
去年にちまっと書いて、放置していた小説です。季節ものなんで、ラストに考えていたオチが思い出せなくて、適当にやっちゃったんですが、マジで村田は動かしにくい。
っていうか、あまり動いてくれない。
一年前はどんなラストに使用と思ってたのかな、自分……。
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