時折、ユーゼフ様は遠い目をする。

そんな時は、怖いのにぎゅっと抱きしめてあげたくなる。

しかし、本能による選択は「逃げる」しかなくて。

いつでも、痛む胸を隠す。

自分が、傷つかないようにと…。





こわいけどこわくない人







こっちの胸が痛くなるような顔をしていた。
遠い目をしているユーゼフ様は、何を見ているのだろうかと、同じ方向を見るが、
何もない。
ユーゼフ様には、なにかが見えているのだろうか。
もしくは、過去の映像か…。
俺は、シーツを持ったまま思わず立ち止まってしまっていた。
ふいに、ユーゼフ様が俺の視線に気がついて、振り返る。
瘴気に恐怖を覚えると同時に、ユーゼフ様は微笑んで、

「B君」

と、名をよんだ。
ドクンと、心臓が跳ね上がったような気がした。
先ほどまでのユーゼフ様はとてもはかなくて、消えてしまいそうな表情をしていた
が、今は生き生きと目が輝いている。
「ひっ!!」
しかし、せまりくる瘴気に身体は敏感で、本能が警告をならす。

――そして、俺はいつものごとく脱兎のように逃げ出す。

……はずだった。
「どうして君はいつも逃げるのかな…」
「えっ…」
ふわりと、抱きしめられた。
一瞬何が起こったのか理解できなくて、茫然自失。
ほのかに甘い、魅惑的な香りがして、これはユーゼフ様のコロンの香りだと思い出
した。
「……僕が、怖い?」
恐る恐る見上げると、やっぱり胸が痛くなるような少し悲しい笑顔。
そんな顔をさせたいんじゃなくて、ホントは少し嫌味にぐらいに笑っていて欲しく
て。
「そんなことないです!」
気がつけば、俺はそう言い切っていた。
ユーゼフ様の腕の力が弱くなったのをいいことに、身体を180度回転させ、正面
からユーゼフ様を見た。
「B君?」
少し驚いた、ユーゼフ様の顔。
そっと手を伸ばすと、サラサラの金の髪に触れた。
「怖いけど、怖くないです」
「ぷっ…」
ユーゼフ様は、小さく噴出した。
「だって、仕方がないじゃないですか!」
「くっくっくっくっくっ…」
必死で言い募るけれど、さらにユーゼフ様の笑いを誘うばかりで。
ユーゼフ様は腹を抱えて笑っていた。



END



あとがき

B受けアンソロがセバBだったので、たまにはユーBでも。
とはいえ、かなり前に書いて放置していたんだけどね。
2008.3.18 かきじゅん