「ありがとう…」

 そういって、花束をそっとおいた。

 陽だまりの中、やわらかな風がふたりを包み、去っていった。

 それはまるで、ここに眠る彼のように。

 温かく、満ち足りた空気だった。



 いつかこの未来に



 「史鋭慶」
 茶を注ぎ、菓子を出した。
 「なんだ?」
 「お茶はいったよ」
 「あぁ…」
 ほんの少しのおしゃべりすら厭うわけではないけれど、途切れがちの会話。
 ここのところずっとだ。
 皇子と共に、都に帰ってから…。
 思い出しているのは、凄腕の暗殺者のことだろう。
 青樺は、ちいさく溜息をついた。

 見上げれば、とてもいい天気で。
 青い空はもういない人を思い出させた。

 「なぁ、史鋭慶」
 「……」
 「墓参りに行かないか。李暫嶺の……」

 青樺はそう言って、にっこりと笑った。



 小高い丘の上に、李暫嶺の墓はある。
 あまり乗り気ではなかった史鋭慶の腕を引っ張って上りきった丘の上。そこは、史鋭慶とはじめて会った場所でもあった。
 花を手向け、手を合わせる。
 史鋭慶は、じっと墓に見入った。

 「ありがとう……。そして、すまなかった」

 しぱらくして、史鋭慶はそう言い、深く頭を下げた。
 


 日が暮れるまで、何をするでもなく寄り添った。
 青樺は、そっと史鋭慶の手を握った。
 あたたかな手は戦乱のこの世においては剣を握らざるおえず、血に汚れていた。そして、それは自分とて同じ事……。また、この血に眠る者も。守るべきもののために剣を取り、戦った。
 「いつか……」
 「…」
 無言で続きを促す瞳に微笑みを向け、青樺は言葉を紡いだ。
 「いつかこの未来(さき)に。史鋭慶と進む道の先にしか俺の幸せはないから」
 「……青樺」
 目を見開いて、驚いている史鋭慶の頬に触れた。
 「覚えていてくれ。それだけを――」
 次の瞬間、きつく抱きしめられる。

 守るべきもののために剣を取り、戦った。

 それはお互いに一緒なのだ。

 かつては血に濡れた手ではあるが、幸せになる権利はそれぞれの手の中にあるのだ。

 「青樺……」
 小刻みに震える史鋭慶の背を、青樺は撫でた。
 孤独だった男はやっと、かけがえのない男の死を悼む涙を流した。


 END

 


あとがき
史鋭慶ルートその後。西域からかえってきたおふたりさんです。
題名は「いつかこの未来に」と書いて、「いつかこのさきに」と読みます。
きっと、国は平和になったけど、それだけに考える時間が増え、ふさぎこんでしまった史鋭慶さんと、心の強い嫁(?)の青樺たんです。
きっと、李暫嶺の死を誰よりも悼んでいるのは史鋭慶だけれど、彼は泣くことすら出来ずに、全てを内に閉じ込めてしまっていたんじゃないかと思います。
しっかりものの青樺たんの胸でたんと泣くがいい
2007.4.30かきじゅん