百害と一利の関係
「久しぶり」
出張で近くまできたついでに、父の墓に寄った。
「水なんかより、酒のほうがいいだろう。そっちで飲んでくれ」
セバスチャンは、そう墓に話しかけ、ウイスキーのボトルの蓋を開けた。
ウイスキーを墓に供え、ポケットから煙草を取り出す。父がいつも吸っていた、セブンスターという銘柄の煙草。
……めったに、家にいない父だった。
そんな父ではあるが、あるときは口にくわえ、あるときは耳にはさんで、たまの休みには…と、家族サービスに精を出していたのを覚えている。
うまそうに紫煙を吐き出す父を、幼少の頃は不思議に思いながらも見ていた。ねだると酒は飲ませてはくれたが、煙草は吸わせてくれなかった。大人になってからすってみたが、あまりおいしいとは思えなかった。
セブンスターの封を開けて、一本、口にくわえた。
左手で風をよけながら、右手に持ったライターで火をつける。
独特のにおいがまとわりついた。
特に、うまいとは思わない。
ただ、懐かしいと思った。
2口ほど吸って、墓に火のついたままの煙草を供えた。
「また、気が向けば来る」
そういい残して、セバスチャンは踵を返した。
「ったく!」
放っておけばいつまでも遊んでいる主人をイスに縛り付け、ヘイヂの挑戦を受け流し、ユーゼフのある種のセクハラをかわしながら、セバスチャンは仕事をしていた。
ふと時計をみると、そろそろ休憩の時間である。
セバスチャンは、小さく溜息をついて、書類を持ったまま休憩室へと向かった。
とりあえず書類を横におき、コーヒーと茶菓子の準備。今日は、作り置きのバタークッキーでいいだろうと、作り置き用の缶を取り出す。
コーヒーはモカか、エメラルドマウンテンか…。と少し悩んで、モカにした。コーヒーメーカーにセットして、スイッチを入れる。
コーヒーカップを準備していると、ポケットに、かさりと動く気配がして手を突っ込んだ。
「……」
入れっぱなしにしていて、忘れていたのだろう。父の墓にそなえたセブンスターの残りが、クタクタになっていた。
見渡すと、来客用の灰皿とライターが目についた。
一本だけならかまわないだろうと、窓辺に持っていって火をつけた。
「ふう…」
吸い込むと、ニコチンが血液中をめぐるような気がした。うまいとは、やはり思えなかったが、身体の力がゆっくりと抜けていく。セバスチャンはゆっくりと、凝り固まった肩と首を動かした。
コンコン。と、ノックの音がして、セバスチャンは振り返った。
「失礼します」
カチャリとドアが開いて、Bが入ってきた。
「お疲れ様…で…す……」
部屋に入ったなり、硬直するB。
「どうした?」
セバスチャンは怪訝に思って、声をかけた。
Bは金魚みたいに口をパクパクさせたと思ったら、つかつかと寄ってきて、セバスチャンの手から煙草を奪った。
「なんてもん、吸ってんですかっ!煙草なんて、百害あって一利無しとまで言われているんですよ!!」
ぐりぐりと、灰皿に煙草を押し付けて、Bは怒った。
「だいたい、煙草は自分だけに害があるんじゃないんですよっ!!」
プリプリと怒るBに、最初はあっけにとられたセバスチャンだが、こんなにかわいいBがみらるなら、百害あっても一利ある。と、セバスチャンはひそかに思った。
あまりにも熱心に煙草の害についてまくし立てるBは、ものすごくかわいかった。
それが、自分の健康のためを思って言ってくれているとなれば、いとおしさも倍増。
堪えきれなくなって、ふっと笑うとBは顔をますます真っ赤にして怒った。
「わかってるんですかっ!」
「わかっているさ…」
セバスチャンは、Bの腰に手を回して引き寄せた。
「なっ!?」
「悪かった」
耳元で囁くと、最初は抵抗していたBもおとなしくなった。
「…いつも吸ってないのに」
セバスチャンに抱き寄せられて、しかもここは職場の休憩室で。さっきまでまくし立てていた自分を思い返して、Bは羞恥で顔を赤くした。
「たまたま…な」
額にキスを落とすと、くすぐったそうにBが身をよじった。
「煙草くさい…」
「そうか。俺にとっては、懐かしいにおいだけどな」
セバスチャンは肩をすくめた。
バタバタと足音と、話し声が聞こえて、二人は自然に離れていった。
「後で、話してくれるんですよね」
Bはコーヒーを入れるために、コーヒーカップを人数分出した。顔は、まだ赤いままだ。
「……」
セバスチャンは、灰皿を片付けようと手にもったまま、Bをみた。
「煙草の…理由……」
小さくBが呟いたのと、「失礼しま〜す」と、Aとツネッテが仲良く休憩室に入ってきたのは同時だった。
「夜に…な」
セバスチャンはBだけに聞こえるように、小さく囁いた。
END
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あとがき
はい。ということで、煙草ネタ第3弾でした。今回はセバスチャンが吸ってますね〜。
セバスチャンがセブンスターという設定は、一番始めに・・・。かきじゅんのなかでは、セバスチャンは、シンプルでかっこいいという個人的なイメージからセブンターだと決めつけていました。て
ちなみに、うちの両親がセブンスターでして、やはり子どもの頃からかぎなれた煙草の匂いというのは、かきじゅんは懐かしい気がします。なので一応、原作では煙草は吸わないと言っているので、理由付けにパパりん登場。
06.8.4 かきじゅん