陽のあたる場所
「史鋭慶?」
気が付けば、青樺が心配そうな顔で俺を覗き込んでいた。
「どうかしたのか?」
「……なんでもない」
「ならいいんだけど……」
そう言って、青樺はパタパタと、また洗濯物を持って走っていった。
初夏の風が、頬をなでた。
李暫嶺がいなくなってからでも、日は刻々と過ぎていき、青樺も笑顔を取り戻した。今でも不思議な奴だったと、李暫嶺のことを時々思い出す。
一緒にいた日々は、そう長いものでもなかったと言うのに、ずっと一緒にいたかのように錯覚するときがある。
自分勝手に考えて、結論を出して、人のことばかり心配していた李暫嶺。
奴に会ったら、とりあえず殴って、文句の一つでもいいたいところだ。
もう、会うことは絶対にないとわかっているが…。
史鋭慶は感傷的になっている自分を、自嘲的に笑った。
ふと見上げた空は、もう夏と言っても過言ではないほど澄み渡っていた。
梅雨の合間にきれいに晴れた日。青樺は「こんないい日には、洗濯っ!」と宣言したなり、あちこちの部屋の寝具を干したり、洗濯したりと走り回っていた。
「史鋭慶」
腕に渋い藍色の服を抱えて、青樺が戻ってきた。
「なんだ?」
「その服脱いで、これを着てくれないか?洗濯したいんだ。
それに、見ているこっちが暑そうだ」
ニコニコと「はい」と、服を出されたら、受け取らなければなるまい。
そういうお前は寒くて見てられん。と、冬になったら絶対に言ってやると史鋭慶は心の中で誓った。
「着替えが済んだら、洗濯物は持ってきてくれないか?外で洗濯してるから」
そう言うなり、青樺はまた、パタパタと駆けて行った。
史鋭慶は小さく溜息をついて、服を着替え始めた。
おとなしく着替えて、洗濯物を外に持っていくと、井戸の近くの洗濯場で、青樺は一心不乱に洗濯していた。
大きな桶に白い泡をいっぱいにして、汗をかきながらやけにうれしそうにである。
庭のあちこちには、洗い終わった服やら敷布やらが干してあった。朝からかなり張り切っていたが、まさかこんなに干してあるとは思っていなかった史鋭慶は目を見張った。
少し強い風が吹いて、青樺の髪を揺らす。
桶の泡が風に飛ばされて、ふわりと中に待った。
陽の光に照らされて、泡は虹色に輝く。
それをみた青樺が、あどけない顔で微笑んだ。
それはまるで、あたたかな一枚の絵のようだった。
あたたかい何かが、史鋭慶の心に染み渡っていく。
平和だと思う。
守りたいと思う。
それから、青樺が愛しいと思う。
青樺のためなら、なんでも出来ると思った。
史鋭慶は、李暫嶺が青樺を連れてきた本当の意味が、漠然とわかったような気がした。
陽のあたる場所で生きていってほしい……。
太陽にように、あたたかく人を照らしていく青樺に、史鋭慶を託したのは、そう言いたかった為なのだろう。
「あ。史鋭慶」
史鋭慶に気が付いた青樺が、満面の笑みで泡だらけの手を振った。
泡は中を舞い、虹色の宝石のように光り輝いた。
END
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今回は、PC版でしょうかね。史鋭慶ルートです。梅雨明けがまだなので、晴れの日は貴重です。
かきじゅんは、掃除は嫌いですが、洗濯物を干すのが好きなもので、あの天気のいい日の爽快な洗濯を、青樺たんにしていただきました。
ちなみに、史鋭慶さん家はきっとかかあ天下です。
06.7.14 かきじゅん