銀の夜
うすい月明かりが、城を照らしていた。
城は月明かりにつつまれ、銀の輝きとなる。
夜の帳は、月の明かりとあいまって幻想的な夜を作り出していた。
喩えるのであれば、彰欄や朱緋真の幻影のよう。
現実のように見えて、現実ではない幻影。
幻影のように見えて、幻影ではない現実。
青樺はふと、口元をほころばせた。
久々の城で、久々の仲間に囲まれて飲む酒はうまくて、ついつい飲みすぎてしまったかもしれない…。
ふわふわとする身体を、ひんやりとした夜風がやさしく包んでくれる。
手近にあった椅子を引っ張ってきて腰掛け、欄干に頬杖をついた。
なんでもないことなんだけど、なんだかうれしくって、こそばゆい。なんだか、変な感覚。
「青樺、どうしたんだ?」
「こんな所で何をしているんだ、貴様は」
「李暫嶺。史鋭慶…」
いつの間に宴会を抜け出してきたのか、二人は青樺の後ろに立っていた。
史鋭慶は眉を器用に片方だけ上げて、突然自分の外套を取りはずした。そして、ぼうっとその光景を見ていた青樺に、荒っぽい手つきで頭からかぶせた。
「史鋭慶!何するんだよ!!」
青樺はじたばたともがいた。李暫嶺がクスクスと笑って、ゆったりと史鋭慶の外套を青樺の体に巻きつけた。
「冷えてしまったは風邪を引く。心配していたんだよな、史鋭慶」
「…ふん」
むすっとしている史鋭慶。でも、李暫嶺にはそれが照れ隠しだって気づいていた。
「ありがとう、史鋭慶」
そんな二人のやり取りを見て、青樺はくすぐったそうに、しかしとてもうれしそうな笑顔で礼を言った。無表情の史鋭慶の顔が、ほんのり赤くなったように見えたのは、青樺の見間違いではないだろう。
目配せしてくる李暫嶺に微笑みで返し、史鋭慶の外套に頬を寄せた。
史鋭慶のにおいと、外套に残るほのかな温かみが心地いい。
「酒でも少し飲むか?身体が温まる」
「ああ。そうだな」
言いながらも立ち上がりかけている李暫嶺に頷く。
「すぐ戻る」
そう言って、俺の頭をクシャリと撫でて、李暫嶺は厨房へと向かった。
青樺は李暫嶺を見送って、史鋭慶を見上げた。
「なんだ?」
「なんでもない」
ゆるゆると首を振って、青樺は自分の隣の席をぽんぽんと叩いた。史鋭慶は滑り込むように、そこに座った。
なにげなく見上げると、月は艶然と闇を照らしていて。青樺はほのかに微笑みながら月を見ていた。
そして史鋭慶は、そんな青樺をじっと見ていた。
「…きれいだと思わないか」
「なにがだ」
「月が…」
ほら。と、青樺に促され史鋭慶も闇に浮かぶ月を見た。
「あぁ」
頷く史鋭慶に、青樺は顔をほころばせた。
「もって来たぞ」
李暫嶺が器用に、酒と猪口、つまみをもってやってきた。
「ありがとう、李暫嶺」
「どうしたんだ?二人して空を見上げて」
酒を注ぎながら、李暫嶺が尋ねた。
「月がさ、とてもキレイだったから」
「どれ」
李暫嶺は酒をおき、欄干に手をかけ外を見上げた。
「本当だな」
「あぁ」
しばらくの間、青樺と李暫嶺、そして史鋭慶は月を眺めていた。
「え…」
突然、ぐいっと史鋭慶に抱きこまれ、青樺は驚き固まった。
「青樺?」
心配そうな李暫嶺が、青樺の顔を覗き込んだ。
「泣くな…」
史鋭慶にそういわれ、青樺はやっと自分が泣いていることに気がついた。
「あれ…?」
ぬぐってもぬぐってもあふれ出る涙に困惑していると、史鋭慶に腕をつかまれた。
「こするな」
「あ。うん…」
目じりにキスをされ、伝う涙を嘗めとられた。
「青樺、ひとりで抱え込まなくていいから」
「うん…」
李暫嶺にも口付けられ、青樺はじんわりと温かいものを感じた。それは幼かった頃、家族と一緒にいた安心感にもにた感情。
「一緒にいてやる。だから泣くな」
「ありがとう」
史鋭慶に囁かれて、その感情の意味を知る。それは、幸せという感情。
「うれしいんだ…」
伝い落ちる涙をそのままに、青樺は微笑んだ。
「史鋭慶がいて、李暫嶺がいて…。一緒にいれることが」
夜の闇のような、史鋭慶。
淡く闇を照らす月の光のような、李暫嶺。
あぁ、そうか。
と、唐突に青樺は納得する。
月は、嫌いだった。父や兄の死を思い出すから。
でも、今、月がきれいだと思える。
それは、史鋭慶と李暫嶺がいてくれるからだと。
「いいのか?」
史鋭慶に囁かれて、青樺は顔を上げた。
「なにが?」
「一生、青樺と共にいても…」
青樺の髪に、李暫嶺は口づけた。
「あぁ」
頷くと、息も出来ないほど、二人に強く抱きしめられた。
それは、淡い月の光に照らされた銀の夜の約束……。
いつか、死が3人を分かつまで。
END
あとがき。
帝千は、やっぱこの3人ですよv
題名は、日本酒からバクリました。キレイなブルーのボトルでした。飲んだことはあ
りませんけどね。
2007.2.28かきじゅん
この小説ははにコネ1周年記念フリーでした。配布期間は終了しました。