温泉へ行こう!  第二話「ヤマト☆パニック」D

 


 
「ヤマトさんの記憶が無くなったのは、予想外だったわね…」
 「お兄ちゃん…」
 意気消沈しているタケルをちらりと横目で見て、ヒカリは興味無さげに磨き上げられた温泉を見た。
 「お兄ちゃんがヤマトさんとくっつくのは予定通りだけど、お兄ちゃんがヤマトさんにくっ付きすぎというのは許せないわ!」
 ヒカリは腕組みをし、強い口調で言いきった。
 「ヒカリちゃん……」
 タケルは少し感動して、ヒカリを見つめた。
 「お兄ちゃんは私のものなのに!」
 ヒカリは握りこぶしを作りながらそう言って、さらにこう呟いた。
 「たく、もう…。やってらんないわ…」
 タケルはヒカリに悟られない様に、ホロホロと涙した。
 「私の人生は私のものだけど、お兄ちゃんは私のもので、お兄ちゃんの人生も私のものなのよ!」
 「……ヒカリちゃん……」
 タケルは、密に太一に同情した。そして、『いくらなんでもそこまで…』と思い、止めようとした。
 「何よ?」
 キッとヒカリに睨まれて、タケルはすごすごと「なんでもないです」と引き下がった。ヒカリに逆らっても無駄だと、タケルの本能が囁いたのだ。
 「タケル君も私のものよ。離さないから」
 強い意志の光を放つヒカリの瞳に見据えられて、タケルはコクコクと頷いた。
 ヒカリはふわりと微笑んで、タケルの額にキスをした。
 「大好きよ、タケル君」
 「僕もヒカリちゃんが大好きだよ」
 この、ヒカリの一途さに引かれて、強さに引かれて好きになったのだ。下僕だろうと奴隷だろうと付いていくと決めたのだ。いつかこの手でヒカリを守る日を夢見て。
 「計画を練らなくっちゃね。ヤマトさんが記憶を取り戻すための」
 「うん」
 二人は不敵に微笑んだ。



    


5話。ヒカリがくろ〜い・・・
2006.10.4 かきじゅん