ベスト☆プレイス



 ある日、朱緋真は青樺にたずねた。
 「元堅のおっさんの頭って、どうなんてるんだ?」
 青樺は洗って干した清潔な包帯をクルクルと、手馴れた動作で巻きながら朱緋真を見上げた。今日は久々のいい天気だったし、2日ほど前に戦闘に出ていた元堅たちが帰ってきたので洗濯物がいっぱいなのだ。
 「元堅?酒のことしか考えてないんじゃないのか」
 興味なさげに青樺は話を切り上げた。することがたくさんありすぎて、朱緋真のただの無駄話に付き合っている時間は、今の青樺には無かった。
 「そうじゃなくってさっ!あの頭に巻いている布の中だよ!!」
 「まぁ、いいから。朱緋真はココに座れ。そして、巻け」
 地団駄を踏む朱緋真に、青樺は自分の隣をポンポンと叩いて、座るよう促した。こんもりと山になっている包帯は、巻いても巻いても尽きることを知らない。生贄は一人でも多いほうがいい。
 「ええっ!」
 「つべこべ言わずに巻け。で、ようするに元堅の髪についてだろ?」
 さすがは大将とも言うべきか。朱緋真の面倒くさがり&話は聞いてほしいという性格を把握した上で、朱緋真を包帯巻き巻きに引きずり込むことに成功した。
 朱緋真はペタンと青樺の隣に座り込んで、包帯を手に取った。
 「そうそう。おっさんって、いつも布まいてんじゃん?」
 「まいてるな」
 気の無い相槌を打つ青樺にお構いなしに、朱緋真は熱く語り始めた。
 「俺、おっさんが布をかぶってないところって、見たこと無いんだよ」
 「そうか」
 「でさ、アレをはずさないってことは、おっさんハゲてたりするのかなって思ってさ」
 「まぁ、あるかもな」
 青樺は新しい包帯を手にとった。ホントに多すぎて、溜息が出た。
 「なんだ。青樺も知らないのか?」
 朱緋真が手を止めて、青樺を見た。
 「手が止まってる」
 青樺はちらりと朱緋真を見て呟いた。早くコレを終わらせて、次は布団と洗濯物をといりいれなければと気は焦る。今日は、フカフカの布団で気持ちよく寝ることが目標なのだ。
 「そんな、元堅の頭なんて気にしてる余裕はなかったからな」
 しかしながら、一応手伝ってもらってはいるので、朱緋真の好奇心は満たさなければならない。青樺は元堅の頭を思い出そうとがんばってはみたが、どうしても思い出せなかった。
 「そんなもんなのかな…」
 「そんなもんじゃないのか。」
 たいぶ陽が傾きかけていた。青樺は溜息をついて、このままじゃ終わりそうに無いから、とりあえず布団を先に入れようと立ち上がった。
 「青樺?」
 「そんなに気になるなら、元堅に直接聞いてみろよ。俺、布団を入れてくる」
 そういい残して、青樺は自分の部屋へと戻っていった。




 「で、聞いてみたのか」
 「何が?」
 あの会話から一週間後、朱緋真と青樺は、陳軍が民に向かって暴力の限りを尽くしているという情報が入った町に向かっていた。
 「元堅の頭にハゲがあるかどうか」
 「そんな暇なかったし…」
 朱緋真は眠そうに目をこすっていた。ここ一週間、彰欄にずっとしごかれていたらしい。
 「青樺っ!」
 「大将!!」
 元堅と仲間が、緊迫した様子で叫んだ。
 「陳軍だっ!」
 「予定より早かったか…」
 いつの間にか青樺の背後にいた貴沙烙が呟いた。青樺が振り返ると、貴沙烙は薄く笑って頷いた。
 「全員、作戦どおりの配置につけ!」
 青樺が指示を飛ばす。
 「大丈夫だ。予定が早まったところで、俺たちの勝利は間違いない」
 貴沙烙が頷くのを見て、士気はうなぎのぼりだ。
 「来るぞっ!」
 今回の戦闘に一緒に来ていた鍔双が吼えた。
 「でやぁぁぁぁっ!」
 陳軍の兵士たちが気合だけで突っ込んできた。今回の遠征には参加していない醜塊が青軍の捕虜…もとい仲間になってからというもの、陳軍の指揮・連絡系統は乱れに乱れている。貴沙烙の笑みが深くなった。
 「元堅!鍔双!」
 青樺が指示を飛ばす。
 「おうよ」
 「…」
 元堅と鍔双は、前線へ踊り出た。
 敵を蹴散らす元堅と鍔双に、陳軍は恐れおののく。何せ、かつての孟将軍とその部下・鍔双なのだ。実力は痛いほど知っている。逆に青軍の士気は上がりっぱなしだ。
 「行くぞっ!」
 青樺が剣を掲げて、突撃を促した。
 「おぉぅぅっ!」
 絶好調の青軍はうなり声を上げて、元堅と鍔双に続けとばかりに陳軍の兵士と切り結ぶ。
 「朱緋真っ!」
 「はいよっ!」
 青樺の掛け声に答え、呪文を発動させる朱緋真。
 バリバリバリとすごい音がして、雷が陳軍兵士の頭上に落ちた。
 「ぐぁぁぁ!」
 「うぁっ!」
 いつみても、阿鼻叫喚の地獄絵図の状態。そんな中、元堅を後ろから狙っていた兵士が直撃は免れたものの、感電してたたらを踏んだ。剣も持てず、もう虫の息だなと思い、青樺は放置しようとした。
 「元堅!」
 なかなかその兵士はしぶといやつだったようで、元堅に最後の力を振り絞って掴みかかろうとした。青樺は自分の認識の甘さに臍を噛んだ。
 「俺の後ろを取るには100年早ぇっ!」
 元堅は青樺の声に反応し、前方の敵を剣でなぎ払い、後ろの敵に回し蹴りをきめた。
 「ぐっ…」
 ずるりと崩れ落ちる兵士。その手には、元堅は掴み損ねたが、頭に巻いてある赤い布をしっかりと握っていた。
 はらりと解ける赤い布。
 朱緋真もこっちに気づき、興味津々で見守っていた。
 「…っ!?」
 青樺はここが戦場だということも忘れて息を呑んだ。
 「ヤバい…」
 鍔双が小さく呟いた。
 元堅の頭が、あらわになっていく。
 「な…んで…」
 青樺はそれ以上、言葉がでなかった。
 あきらかに、あの赤い布の中に納まるのか謎な質量の髪。
 「おまえら何をグズグスしているっ!」
 油でしっかりと整えた髪には、一分の乱れも無い。前方に激しく突き出した髪型…人はそれをリーゼントと呼んだ。
 「孟将軍っ!」
 鍔双が慌てて元堅に走りよる。
 「鍔双。行くぞ…」
 元堅はニヒルに笑った。
 「孟将軍、お待ちくださいっ!」
 「待てるかっ!うおぉぉぉ、ベストプレイス〜!!!!!」
 そして、とめる鍔双を振り切って、陳軍の中に張り切って突進していった。
 「…っ!?」
 呆然としていた青樺は、ハッと気がついて貴沙烙を振り返った。
 「貴沙烙っ!アレはいったいなんなんだっ!?」
 「俺が知るかっ!?全軍突撃ッ!!」
 貴沙烙の声に、我に返る青軍の仲間たち。一人で突っ走る元堅に続けと、陳軍と交戦を開始した。



 「なぁ…鍔双…。知っていたのか…?」
 元堅の暴走によって、戦闘は予定より2週間も早く終結した。
 「孟将軍のアレ…か?」
 「ああ…」
 力尽きたように座っている青樺の隣に、鍔双もまたふつりと糸が切れた人形のように座り込んだ。
 「見てのとおりだ…」
 青樺は鍔双は水を差し出した。本とは酒のほうがよかったのかもしれないが、水しかなかったのだ。
 「布が取れると、人格が変わる…と」
 いつの間にか貴沙烙もやってきた。
 「っていうか、アレってどこの国のどこの言葉なんだか…」
 朱緋真もふらりとやってきた。
 元堅が暴走するだけならよかったのだ。しかし、あいつの暴走はそれだけでは止まらず、元々の熱血がさらに加熱。それに引きずられた青軍兵士たちと、ベストプレイス探しの旅に出ようとてしてみたり、まだ時期が早いというのに陳王高討伐隊を結成していたり、後はいつもよりさらに過保護に青樺の世話を焼きたがったり…等々、いろいろなことがあった。
 「疲れたな…」
 ポツリと呟く青樺。朱緋真がうんうん。と頷いた。
 「…俺が部下だったときにも、一度、あの状態になったことがある」
 鍔双がポツリと語り始めた。
 青樺はその時、何か対処法でも…と淡い期待を抱いた。
 朱緋真は、純粋に楽しそうだと目をキラキラさせていた。
 「その時、皇帝が歌ったのがこの歌だ。
   戦場に
         咲く元堅の 
                      りいぜんと」

 夏はもうすぐだというのに、冷たい冷たい風が吹いた…。

 END



あとがき

 ことの発端は、はにわでした・・・。はにわが、「元堅のあたまのバンダナを取ったら○○○○」などとある日、いったんです。丁度、オンリー合わせの本を作っていた時で、あきなはそれで「漫画を描け」と・・・。
 はにわは逃げ続け、このような小説の形での発表とあいなりました。
 はにわ、ネタ提供ありがとう。
 寒いギャグで、暑い季節なので、涼しくなって頂ければ嬉しく思います(苦)。

2006.6.28  かきじゅん