「よいしょっと…」
ゆっくりと立ち上がったつもりだけど、膝と腰が痛んだ。ずっとしゃがんでいたからだろうか。
「ちょっと、B。親父くさいわよ」
洗濯物をもって通りがかったツネッテが、それを聞きとがめた。
「しかたないだろ。しゃがみっぱなしだったんだから」
「そうだよな」
Bの隣でしゃがみこんでいたAも立ち上がり伸びをした。
秋晴れの空の下
「デイビットさん、少し厨房をお借りしてもいいですか?」
「いいけど、何をするんだ?」
ひょこっと厨房に現れたBに、デイビットは作業の手を止めた。
「天気がよかったので、芋を掘ったんですよ。せっかくなので、何か作ろうかと…」
「B、重い…」
「お。いい芋だな〜。A君」
「デイビットさん…重いんです…」
「お、悪い悪い」
芋の重さでプルプル震えているAの手から、デイビットは大量の芋の入ったダンボールを引き受けた。
そして、流し台へと運ぶ。
Bはすでにエプロンをつけていて、さっそく芋を手にとった。
「なにを作るつもりなんだ?」
「スイート・ポテト…あたりが無難かな…と」
Bはすこし考えながら口にした。少ないレパートリーの中で作れるお菓子はそれぐらいのものだ。
「そうか。必用なものがあったら言ってくれ」
「ありがとうございます」
そう言ってデイビットはやわらかく微笑み、Bは何が必要かを数え上げた。
芋を蒸して、皮を剥く。
つぶして、温かいうちにバターを入れ、よく混ぜる。
「俺、裏ごしするよりも、粒が残っているほうがすきなんですよ」
本来、さつま芋は裏ごしするんじゃないのか?と尋ねたデイビットに、Bはそう答えた。
「お袋が、面倒だからって、裏ごししていなかっただけらしいんですけどね」
「このレシピはB君のマミィの?」
「ええ。ガキの頃、この時期のおやつは、スイート・ポテトだったんです」
意外と器用に卵を割って、黄身と白身に分ける。黄身の方をつぶした芋に入れ、よく混ぜる。
「B。どう?調子は」
「お嬢ちゃん」
「まぁまぁ…たな。どうかしたのか?」
「せっかくだから、外でお茶にしない?丁度、それが出来上がる頃には、お茶の時間でしょ?」
厨房の窓から見上げた空は、透き通った青。
時計は、14時30分。
「そうだな」
「じぁ、セバスチャンにもそう言っとくわ」
「頼む」
用件が済むと、パタパタとツネッテは駆けて行った。
Bは器用に、芋を四角や三角、星型にかたどっていく。
デイビットは「器用だな〜」と言い、ニコニコとその様子を見ていた。そして、ふいに思いついて、芋を手に取った。
「さて、俺も何か作るかな」
どうやら、今日のおやつの時間はすごく豪勢になりそうだ。
中庭では、すでにセバスチャンとツネッテの手によってテーブルがセットされていた。
B君の手作りお菓子をエサにされ、デーデマンは死ぬ気で仕事をした…らしい。
「死ぬかと思った…」
テーブルについてはいるが、半死半生である。
「別に食べなくてもよかったのですが」
「食べないなんてありえないっ!」
茶器を準備しているセバスチャンに冷たく突っ込まれ、デーデマンは机をバンバン叩きながら反論していた。
今日はウエッジウッドの茶器に、茶葉もウエッジウッド。いつものブルーの缶ではなく、ピーターラビットの缶に入ったものをかごに入れて、3種類ほど用意していた。
用意したのはもちろん、ヨハン。
もうひとつ、小さなかごにはリボンがつけられ、マロン・グラッセが入っていた。
白いテーブルクロスの上には、ツネッテが花瓶を用意して花をいけていた。
「あら。そのお花、いいわね」
「そうですか?ありがとうございます」
やってきたマイヤー森永にそういわれ、ツネッテはうれしそうに微笑んだ。
「旦那様。どの茶葉がよろしいですかな?」
「ん〜。僕はブレンドで」
「かしこまりました」
ヨハンはにっこり笑って、セバスチャンと一緒にお茶を入れ始めた。なぜなら、デイビットとBがお盆を持って、歩いてくるのが見えたから。
「お待たせしました」
そっとテーブルにおろされたお盆の中には、一口サイズのかわいらしい形をしたスイートポテト。
「わぁ…」
「おいしそう…」
「なんか以外」
「焼き立てなんで、今ならまだ温かくておいしいですよ」
Bは少し照れながらそう言った。
「で。こっちはサツマイモのモンブランだ」
小さなカップケーキに黄金色のサツマイモペースト。
「かわいい〜」
口々に感想を述べ、それぞれに自身の皿へと取り分ける。
「いただきま〜す」
Bとデイビットはセバスチャンから紅茶を受け取り、一口すすった。
「おいしい〜」
「あら…」
「いいお味ですな」
「んんっ!」
「旦那様、食べてからしゃべりなさい」
「どれ。俺も一個貰おうか」
「はい。どうぞ」
またには、和気藹々と外でお茶を。
秋晴れの空の下、きもちのいい風が吹いた。
END
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あとがき
デーデマン家のある日の日常でした。
この時期のスイートポテトはおいしいですね〜。
今年は、まだ一回しか作っていませんが、コレを書いていたら食べたくなったので、サツマイモを買ってきました(笑)。
問題は作る時間が…。
ちなみに、「面倒だ」という理由で、芋を裏ごししないのは俺です(苦笑)。
06.11.8 かきじゅん