いつでも、一番の特等席にいるのはこいつ。

 焼きたてのアツアツを「味見」といってほおばり、熟成させている間から、次々に切り分けていく。

 クリスマスまで残った最後の一切れも、たいていこいつの口の中。

 これを「特等席」といわずして、なんと言う?



 
シュトーレン  〜特等席〜



 「さて、やるか…」
 俺が腕まくりをする中、Bはちょこまかと強力粉、薄力粉、グラニュー糖、ドライイースト、シナモン等を次々に並べていた。
 「去年のでいいんですか?」
 「ああ」
 俺が卵と牛乳、バターを取り出していると、厨房の床下収納をあけていたBが尋ねてきた。
 毎年、シュトーレンを作ると同時に、来年の分のドライフルーツをラム酒につけておくのが習慣となってしまっている。本当は、もっと寝かしたものを使いたいのだが、なにせ食べる量が多すぎるのだ。
 「よいしょ」
 大きな瓶につけてあるドライフルーツを持ち上げて、作業台に置く。
 「さて。やるか」
 材料をひとりきり並べて、俺は軽量カップを手に取った。
 「はい」
 Bはそこはかとなくうれしそうに頷いた。


 ふわっと、ラムのにおいがオーブンから漂う頃。
 次に焼くシュトーレンの生地をこねていたBが、ふわりと微笑んだ。
 「なんか、冬がきたって感じですよね」
 焼きあがったシュトーレンに塗るラム酒と溶かしバター、パウダーシュガーを準備していた俺は、ハカリから目線を上げた。
 ふと、まとわりつく匂いに、冬を感じた。
 それは、焼きあがるラムのにおい。
 オーブンの熱気で暖まった部屋。
 バターの香り…。
 「たしかにな…」
 俺はそう言って、オーブンを見やった。
 ……そろそろいい頃合いだろう。
 そう考えて、ミトンをはめて、小さく丸めてあるシュトーレンを取り出す。
 大きいのは、もう少し焼いたほうがいいだろう。
 「B」
 呼ぶと、うれしそうに微笑んだ。差し出したシュトーレンは、まだ湯気が出ている。
 「いいいんですか?」
 「味見だからな」
 「ありがとうございます」
 そう言って、エプロンの端でそっと受け取る。
 「セバスチャン、バター、いいですか?」
 「ああ」
 あつあつのシュトーレンに、バターを乗せてはふはふ齧る。
 「おいしいです!」
 うれしそうな、Bについつい頬が緩む。
 「そうか」
 そう言って、俺は紅茶を入れるべく立ち上がった。



 END

  


クリスマス&末年始連続企画・セバスチャン編第2段!
2006.12.17 かきじゅん